ソビエト宮殿

ソビエト宮殿：幻の巨大建築

ソビエト宮殿（ロシア語: Дворец советов）は、ソビエト連邦時代のモスクワで計画された巨大な建築プロジェクトでした。クレムリンの近く、モスクワ川に面した場所に建設される予定であり、その規模は世界最大級となるはずでした。

計画の始まり

1931年7月、ソ連共産党の党大会議場となる「ソビエト宮殿」の国際設計コンペが発表されました。このコンペには、ソ連国内の建築家だけでなく、ル・コルビュジエやヴァルター・グロピウスといった著名なモダニズム建築家も参加しました。

コンペには、構成主義や社会学的アプローチなど、多様な建築思想が反映された272もの案が集まりました。しかし、最終的に選ばれたのは、ボリス・イオファンらによる新古典主義に基づく案でした。これは、スターリンの意向が大きく影響しており、レーニン時代の前衛的な建築から歴史主義的な様式へと大きく転換するきっかけとなりました。

設計の変遷

イオファンの当初案は、古典主義的な中庭と構成主義的な大会堂が組み合わされたものでしたが、その後、新古典主義の建築家たちが加わることで大きく変化しました。1934年に公開された案では、建物頂上に高さ100mのレーニン像が立ち、建物全体はピーター・ブリューゲルの「バベルの塔」を彷彿とさせるような、巨大で重厚な外観となりました。計画された高さは415mに達し、当時の世界最高となるエンパイア・ステート・ビルディングを超える予定でした。

宮殿内部には、21,000人収容の巨大な大会議場や、6,000人収容の小会議場、博物館、美術館などが設けられる予定でした。また、低層階や地下には、自動車の乗降場や倉庫、機械設備室などが配置される計画でした。

建設の中断

宮殿の建設予定地は、モスクワ最大の教会であった救世主ハリストス大聖堂の跡地でした。1931年12月、大聖堂は爆破解体され、建設工事が始まりました。しかし、モスクワ川からの地下水浸入により、工事は難航しました。

その後、第二次世界大戦が勃発し、建設は中断されました。途中で組み上げられた鉄骨は、要塞建設や鉄道橋建設のために転用され、建設は再開されることはありませんでした。戦後も、イオファンらは設計の手直しを続けましたが、結局、1953年のスターリンの死後、計画は白紙に戻されました。

その後

未完となったソビエト宮殿の跡地には、1958年から巨大な野外温水プールが建設されました。このプールは長年、モスクワ市民に親しまれましたが、ソビエト連邦崩壊後、大聖堂再建の機運が高まり、プールは閉鎖されました。そして、2000年、救世主ハリストス大聖堂は元の姿を取り戻しました。

ソビエト宮殿を扱った作品

ソビエト宮殿は、その壮大な計画と未完に終わった悲劇的な歴史から、多くの映像作品やゲーム作品で取り上げられています。ドキュメンタリー番組や映画、都市計画シミュレーションゲームなど、様々な形でその姿を垣間見ることができます。

結論

ソビエト宮殿は、その巨大な規模と壮大な構想にもかかわらず、実現には至りませんでした。その建設過程で、様々な建築思想の衝突や、政治的な思惑、そして戦争という歴史的な出来事が絡み合い、最終的には未完のまま、歴史に埋もれてしまいました。しかし、その存在は、ソビエト時代の建築史や都市計画を考える上で、重要な教訓を与えてくれるでしょう。

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