ソビエト連邦国家評議会

ソビエト連邦国家評議会と経済機関

1991年8月に発生したクーデターとその失敗は、ソビエト連邦の中央政府の権威を決定的に失墜させました。この政治的空白と混乱に対応するため、同年9月5日、ソビエト連邦の新たな最高行政機関として「ソビエト連邦国家評議会」が設立されました。この評議会は、ソビエト連邦大統領とソ連を構成する各共和国の元首によって構成され、名目上は国権の最高機関としての役割を担うことになりました。その権限の中には、ソ連首相や、万一の際にソ連大統領の代行を選出することも含まれていましたが、その実質的な影響力と存続期間は、ソ連崩壊までの短期間に限定されることになります。

崩壊する経済への対応

クーデターの失敗は、すでに問題を抱えていたソ連経済にさらなる打撃を与え、中央政府の経済運営能力への信頼を完全に損ないました。このような状況下で経済の立て直しを図るため、ソ連大統領ミハイル・ゴルバチョフは、当時ロシア・ソビエト連邦社会主義共和国の首相であったイワン・シラーエフを筆頭に、グリゴリー・ヤブリンスキー、アルカジー・ヴォリスキー、ユーリ・ルシコフの4人からなる委員会を発足させました。この委員会には、新内閣の組閣を含む、差し迫った経済問題への対処が期待されました。

この委員会はその後、「ソビエト経済運営管理委員会（COSME）」へと改組されました。シラーエフは引き続きこの委員会のトップとして、ソ連経済全般の管理運営という重責を担うことになります。

COSMEと共和国間経済委員会

COSMEの設置と並行して、同年9月20日には、ソビエト連邦を構成する各共和国間の経済政策を調整するための機関として、「共和国間経済委員会（IEC）」が創設されました。イワン・シラーエフは、COSMEとIECの両委員会の委員長を兼任することになり、急速に国家としての実体を失いつつあったソ連の経済部門における事実上の最高責任者としての立場を強化しました。特に、同年9月6日に発せられた大統領令によりIECに内閣と同等の権限が付与されたことから、シラーエフは実質的なソ連首相として国内外から見なされるようになりました。

シラーエフの経済改革と挫折

シラーエフは、中央政府の権威が低下した状況を踏まえ、当初は中央から構成共和国への経済的権限の委譲を進める方針をとりました。しかし、やがて彼はこの方針を転換し、8月のクーデターの際にロシア共和国が中央政府から獲得した権限の返還を求めるようになります。この試みはロシア共和国の強い反発を招き、成功しませんでした。結果として、ロシアSRSR首相としてのシラーエフの地位は大きく揺らぎました。一方、ロシアSFSRの第一副首相であったオレグ・ロボフは、ロシアSFSR閣僚評議会内でシラーエフに反対する勢力をまとめ上げ、1991年9月26日にシラーエフをロシア首相の座から退陣させ、自らが後任に就任しました。

実質的にソ連経済を統括していたシラーエフには、中央政府と各共和国の双方に受け入れられる形で経済改革、特に市場経済への移行を進めるという困難な任務が課せられていました。彼は市場メカニズムを導入することで、瓦解寸前のソ連の経済的統合をどうにか維持しようと試みましたが、政治的な混乱と共和国の分離独立の動きの中で、その努力は奏功しませんでした。

ソ連解体への道程

共和国間経済委員会（IEC）は、1991年12月16日から17日にかけて、欧州エネルギー憲章に関する条約への調印に参加するなど、国際的な舞台で中央機関としての存在感を示そうとしました。しかし、これもソ連構成共和国のうち9ヶ国が個別に条約に調印するという形で行われたため、統一された国家としての権威を完全に回復するには至りませんでした。

ソビエト連邦の終焉は目前に迫っていました。ソビエト経済運営管理委員会（COSME）は、同年12月19日付の大統領令によって解散させられました。そして、歴史的な瞬間となる12月25日、ソビエト連邦大統領ミハイル・ゴルバチョフは辞任を表明しました。その翌日、12月26日には、実質的なソ連経済の責任者であったシラーエフも共和国間経済委員会（IEC）委員長を退任し、同日をもってソビエト連邦は正式に解体されることとなりました。

短命に終わった国家評議会や経済委員会といった機関の存在は、巨大国家が崩壊していく末期において、権力と責任が分散し、混乱の中で新たな秩序を模索しようとした試みの痕跡として、歴史に刻まれています。

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