ソユーズ16号

ソユーズ16号は、1974年12月2日にソビエト連邦によって打ち上げられた有人宇宙船です。このミッションの最大の目的は、約7ヶ月後に予定されていたアメリカ合衆国との歴史的な共同宇宙飛行プロジェクト「アポロ・ソユーズテスト計画（ASTP）」に向けた、最終段階のリハーサルを行うことでした。

冷戦時代にあって、ソ連とアメリカは激しい宇宙開発競争を繰り広げていましたが、1970年代に入ると緊張緩和の兆しが見え始め、デタントと呼ばれる時代を迎えます。このような国際情勢を背景に、両国の協調姿勢を象徴する取り組みとして、1972年に共同有人宇宙飛行に関する条約が結ばれました。当初はソ連のソユーズ宇宙船とアメリカのスカイラブ宇宙ステーション、あるいはアポロ宇宙船とソ連のサリュート宇宙ステーションをドッキングさせる構想がありましたが、1974年にスカイラブが退役したことから、アポロがサリュートにドッキングする形が有力となりました。しかし、異規格の宇宙船同士を安全に結合するための汎用ドッキングアダプタの開発が必要であり、ソ連がこれを担当することになりました。同時に、共同計画の具体的な内容は、ソ連がサリュート宇宙ステーションに関する詳細情報を公開するまで非公式とされていました。

ASTP本番に先立ち、ドッキングシステムの互換性などを確認するため、1974年4月のコスモス638号、5月のコスモス652号、8月のコスモス672号といった3度の無人試験飛行が行われました。これらの無人機とソユーズ16号は、いずれも改良型のソユーズUロケットによって軌道へ投入されました。

ソユーズ16号には、船長のアナトリー・フィリプチェンコ飛行士と、フライトエンジニアのニコライ・ルカビシュニコフ飛行士が搭乗しました。両名ともこれが二度目の宇宙飛行となりました。彼らの任務は、ASTPで実際に使用されるシステムが有人環境下で正常に機能するかを確認することでした。

ミッションのハイライトの一つは、ASTPにおけるアメリカ側のアポロ宇宙船に搭載されるドッキングリングを模した、質量20kgの試験用ドッキングリングを用いた検証です。これにより、ドッキング機構の動作や信頼性が確認されました。また、船内の生命維持を担う環境制御システムの改良点や、新しい太陽電池パネル、姿勢制御システム、そして精密なランデブー・ドッキングに不可欠な新型レーダードッキングシステムなどの性能評価も行われました。

特に重要な試験として、ASTPで両国の宇宙飛行士がアポロ宇宙船とソユーズ宇宙船の間を行き来する際に、船内の環境変化による影響を最小限に抑えるための検証が実施されました。通常760mmHg、酸素濃度20%のソユーズ船内を、アポロ船内との乗換え時間を短縮するため、気圧を560mmHgに減圧し、酸素濃度を40%に上昇させるという条件下でのシステム適合性や乗組員の健康状態が評価されました。さらに、万一の事態を想定した手順確認として、12月7日には試験用のドッキングリングが分離ボルトと共に軌道上に投棄されました。

異例の出来事として、ソ連当局は通常公開しない打上げ時刻を、非公開を条件にNASAに通知することを申し出ましたが、NASAがこの条件を受け入れなかったため、NASAがソユーズ16号の打上げを知らされたのは、実際の打上げから2時間後でした。

ソユーズ16号は、約6日間の飛行ミッションを計画通りに遂行し、1974年12月8日にカザフスタン共和国のアルカルイク近郊に着陸しました。このミッションは「完全な成功」と評価され、その飛行期間（約6日間）は、ASTP本番で予定されていた期間とわずか10分しか違わないという綿密なリハーサルとなりました。

ソユーズ16号の成功は、ASTPに必要な技術的課題が有人ミッションでクリアできることを証明し、冷戦のライバル同士が宇宙空間で協力するという、歴史的なアポロ・ソユーズテスト計画の実現に向けた確かな一歩となったのです。

もう一度検索