ソユーズT-15

ソユーズT-15：二つの宇宙ステーションを巡る壮大な旅

ソビエト連邦が遂行した「ソユーズ計画」の一環として実施されたソユーズT-15ミッションは、宇宙開発史においても類を見ない、二つの軌道上ステーションを訪問するという画期的な有人宇宙飛行でした。

このミッションは、新世代の宇宙ステーションである「ミール」への初の長期滞在を行うとともに、先に軌道を離脱した「サリュート7号」に残された貴重な実験結果や装置を回収するという、極めて複雑な目的を同時に達成しようとするものでした。この二重任務の背景には、当時の第27回ソ連共産党大会に成果を間に合わせたいという政治的な圧力と、サリュート7号で発生した問題（ソユーズT-14乗組員の病気）により未完了となっていた作業を引き継ぐ必要性がありました。

搭乗した乗組員は、経験豊富なレオニード・キジム船長（3回目の宇宙飛行）と、ウラジーミル・ソロフィエフ操縦士（2回目の宇宙飛行）の二人でした。彼らのバックアップクルーとしては、アレクサンドル・ヴィクトレンコ船長とアレクサンドル・アレクサンドロフ操縦士が待機していました。

ソユーズT-15は、1986年3月13日に打ち上げられ、質量は6850kgでした。近点331km、遠点366km、軌道傾斜角51.6度、軌道周期91.5分の軌道に乗った宇宙船は、打ち上げからわずか2日後の3月15日には目的地の一つである宇宙ステーション「ミール」への最初のドッキングを成功させました。乗組員はミールに約51日間滞在し、この間に2機のプログレス補給船を迎え入れ、ミールでの長期滞在に向けた初期活動を行いました。

ミールでの初期任務を終えた彼らは、同年5月5日12時12分9秒（UTC）にミールを離脱し、次の目的地であるサリュート7号を目指しました。この移動に先立ち、ミールはソユーズT-15がサリュート7号へ到達するための燃料を最大限に搭載できるよう、意図的に軌道を降下させる操作を行いました。ソユーズT-15はミールから約2500mの距離で分離し、約1日をかけてサリュート7号へ向かい、翌5月6日16時57分52秒（UTC）に無事ドッキングを完了させました。

サリュート7号での滞在期間中、キジムとソロフィエフは特に船外活動（宇宙遊泳）に注力しました。合計2回の宇宙遊泳が行われ、サリュート7号に残されていた実験結果や実験装置、材料サンプルなど、合計350kgから400kgにも及ぶ20もの貴重な品々を回収しました。サリュート7号での主要なタスクの一つは、ソユーズT-14ミッションで病気のため中断された作業の完了でした。特に、ミールの長期運用計画で必要となる技術実証が優先されました。

5月28日の1回目の宇宙遊泳（3時間50分）では、宇宙船外壁に設置されていた宇宙曝露実験装置の回収や、「グライダー」と呼ばれる装置の試験が行われました。このグライダーは、わずか数分で15mの構造物へと展開する実験装置で、宇宙遊泳終了後は逆の手順で格納されました。5月31日の2回目の宇宙遊泳（5時間）では、このグライダーの剛性測定と、宇宙空間での溶接技術を実証する実験（電子銃による溶接）が実施されました。

サリュート7号での任務を終え、大量の回収品をソユーズT-15に積み込んだ乗組員は、再びミールへの帰還の途につきました。6月25日にサリュート7号を離脱し、約29時間の飛行を経てミールに再ドッキングしました。この頃、ミールもサリュート7号からの再接近に合わせ、2度の手動操作により徐々に軌道を上げていました。

ミールに戻った乗組員は、サリュート7号から持ち帰った物資を運び入れ、ミールでの活動を継続しました。このミッションの滞在中に、レオニード・キジム船長は宇宙滞在時間の個人記録を更新しました。特に、7月3日にはワレリー・リューミンが保持していた記録を塗り替え、さらに7月6日には人類史上初めて「丸1年」を宇宙で過ごした人物となりました。乗組員はその後も約20日間ミールに滞在し、地球観測などの任務を行いました。

ドッキングシステムに関しては、ミールへのドッキング時には後部ポートではなく前部ポートを目指しましたが、ソユーズT-15はIgla接近システムを搭載しており、これは通常後部ポート用でした。ミールから20kmの距離でIglaシステムがミールの後部ポートを認識したため、200mの距離でシステムを停止し、乗組員の手動操作によって前部ポートへのドッキングが完了しました。一方、サリュート7号へのドッキングには、1985年のソユーズT-13ミッションでも使用されたレーザーレンジファインダーが用いられました。

ソユーズT-15は、ソユーズ-T型宇宙船を用いた最後のミッションとなりました。以降の有人宇宙飛行では、後継機のソユーズ-TM宇宙船が使用されることになります。

一方、ソユーズT-15がサリュート7号を離れた後、同ステーションとそれにドッキングしていたコスモス1686号は、将来の大気圏再突入に備え、1986年8月19日から22日にかけてコスモス1686号のエンジンにより平均高度475kmというかつてない高軌道へ移動されました。最終的にサリュート7号とコスモス1686号は55ヶ月後に軌道を離脱し、南アメリカ上空で大気圏に突入、アルゼンチンではその破片が発見されています。

ソユーズT-15は、一つのミッションで二つのステーションを繋ぎ、未完了のタスクを遂行し、重要な物資を回収するという前例のない偉業を成し遂げた、ソビエト宇宙計画における歴史的な一歩となりました。

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