ソリッドインク

ソリッドインク方式インクジェットプリンター：高画質と高速印刷を実現した技術

はじめに

従来のインクジェットプリンターは、液体インクを用いるため、レーザープリンターに比べて印刷速度が遅く、印字品質にも課題がありました。これに対し、ソリッドインク方式のプリンターは、固体のインクを微細化して用紙に転写する技術を採用することで、これらの問題を解決しました。

ソリッドインクの仕組み

ソリッドインクは、固体のワックス状インクを使用します。印刷時には、インクを約60℃に加熱して液体化し、ノズルから微細なインク滴として用紙に噴射します。液体インクと異なり、滲みが少なく、鮮明な印字が可能です。この方式により、毎分16枚という高速印刷を実現していました。さらに、2000年代初頭には既に1200dpiの高解像度印字を達成していました。

歴史と市場

ソリッドインク技術は、テクトロニクス社によって開発されました。その後、ゼロックス社を経て、富士ゼロックス（現:富士フイルムビジネスイノベーション）が国内販売を担っていました。しかし、レーザープリンターの高性能化・低価格化に伴い、販売競争に苦戦し、2006年に国内での販売は終了しました。

ソリッドインクの利点

ソリッドインク方式は、次のような利点を有していました。

鮮明な印字品質: 液体インクに比べて滲みが少なく、写真や文字を鮮明に印刷できます。
多様な用紙への対応: 高価なコート紙や光沢紙だけでなく、普通紙でも綺麗な印刷が可能です。
高速印刷: 毎分16枚という高速印刷を実現していました。
環境への配慮: トナーカートリッジやインクタンクのような樹脂製の容器を使用しないため、廃棄物削減に貢献します。

ソリッドインクの欠点

一方で、ソリッドインク方式には次のような欠点もありました。

高い消費電力: インクを常時溶融状態に維持する必要があるため、アイドリング時の消費電力が大きいです。
インクの廃棄: 電源起動時にインクの一部を廃棄する必要があります。
他機器への影響: ワックスが付着するため、レーザープリンターや複写機では使用できません。
書き込みにくさ: 印刷面に書き込みにくいという性質があります。
長期保存時の滲み: 長期保存すると、ワックスが用紙に染み込み、滲んでしまう可能性があります。
臭気: ワックス特有の臭気があります。

インクと用紙

ソリッドインクは、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の4色を用意していました。インクの投入口は、色の混入を防ぐため、各色専用の形状になっていました。用紙に関しても、従来のインクジェットプリンターのように高価な専用紙は必要なく、普通紙でも鮮明な印刷が可能です。

3Dプリンターへの応用

ソリッドインク技術は、3Dプリンター分野にも応用されています。特に、常温で固体化するワックス状インクを積層する技術は、精密な部品製造に適しています。3Dシステムズ社は、ゼロックス社からソリッドインク開発チームを買収し、この技術を活用した3Dプリンターを開発しています。Solidscape社も同様の技術を用いた3Dプリンターを販売しています。

まとめ

ソリッドインク方式のインクジェットプリンターは、高画質と高速印刷という利点を備えていましたが、いくつかの課題もあり、市場から撤退しました。しかし、その技術は3Dプリンターなどの新たな分野で活用され、その可能性は今後も広がっていくと考えられます。

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