ソンミの歌

フレディ・ハバード『ソンミの歌』：時代を映す異色作

ジャズ・トランペット奏者、フレディ・ハバードが1971年に発表したアルバム『ソンミの歌』は、トルコの作曲家イルハン・ミマールオールとのコラボレーションによって生まれた意欲作です。このアルバムは、単なるジャズの枠を超え、当時の社会情勢や事件を反映した、非常に実験的な内容となっています。

音楽性とテーマ

『ソンミの歌』は、朗読や合唱の断片、ミュジーク・コンクレートの要素を取り入れた、前衛的なサウンドが特徴です。アルバム全体を通して、シャロン・テート殺害事件、ケント州立大学銃撃事件、ベトナム戦争といった、1970年代初頭のアメリカ社会を揺るがした出来事に対するメッセージが込められています。

楽曲構成

アルバムは「ソンミの歌 パートI」と「ソンミの歌 パートII」の2部構成で、それぞれが異なるテーマやアプローチを持っています。

ソンミの歌 パートI

「シャロン・テイトへの哀歌」：痛ましい事件への鎮魂歌であり、アルバムの幕開けを飾ります。
「戦闘」：戦争の悲惨さを表現した、緊迫感あふれる楽曲。
「群集」：社会の混乱や不安を描いた、実験的なサウンド。
「ホワット・ア・グッド・タイム・フォー・ア・ケント・ステイト」：学生への銃撃事件を痛烈に批判した、短いながらも強烈なメッセージを持つ楽曲。

ソンミの歌 パートII

「モノドラマ」：孤独や苦悩を表現した、内省的な楽曲。
「ブラック・ソルジャー」：黒人兵士の苦悩や葛藤を描いた、社会的なメッセージを持つ楽曲。
「インタールードI」、「インタールードII」：実験的なサウンドが展開される、間奏曲。
「愛を忘れず」：絶望の中にも希望を見出す、美しいメロディが印象的な楽曲。
「終曲」：アルバム全体の締めくくりとなる、短い楽曲。

参加ミュージシャン

フレディ・ハバード：トランペット、フリューゲルホルン、朗読
イルハン・ミマールオール：シンセサイザー、サウンド・プロセス
ジュニア・クック：テナー・サクソフォーン
ケニー・バロン：ピアノ
アート・ブース：ベース
ルイス・ヘイズ：ドラムス
アリフ・マーディン：ハモンドオルガン、ストリングス指揮
バーナード・コロンビア・コーラス：コーラス
ダニエル・ページェット：コーラス指揮
* メリー・アン・ホックスワース：朗読

評価

音楽評論家のスコット・ヤナウは、オールミュージックにおいて5点満点中2点を付け、「思想を音楽で表現した誠実な作品だが、聴き手を選ぶ抽象的な音楽性で、ジャズ・ファンは他の作品を探した方がいい」と評しています。この評価からもわかるように、『ソンミの歌』は、その実験的な音楽性から、賛否両論を呼んだ作品と言えるでしょう。

まとめ

『ソンミの歌』は、フレディ・ハバードのキャリアの中でも異色の作品であり、1970年代初頭の社会情勢を反映した、メッセージ性の強いアルバムです。ジャズの枠を超えた実験的なサウンドは、聴き手を選ぶかもしれませんが、時代に対するハバードの真摯な姿勢が感じられる作品と言えるでしょう。

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