タイス (オペラ)

マスネのオペラ『タイス』：愛と信仰の狭間で

ジュール・マスネ作曲のオペラ『タイス』（Thaïs）は、3幕7場からなる抒情劇です。特に、第2幕で演奏される『タイスの瞑想曲』は、ヴァイオリンと管弦楽のための美しい間奏曲として広く知られています。

作品の概要

1894年にパリのオペラ座で初演された『タイス』は、当初シビル・サンダーソンのために書かれました。その後、マスネ自身によって改訂され、現在では『マノン』や『ウェルテル』と並ぶ代表作として頻繁に上演されています。マスネの音楽表現が円熟期を迎えた作品としても評価されています。

原作とリブレット

原作は、アナトール・フランスの小説『舞姫タイス』。ルイ・ギャレがフランス語でリブレットを執筆しました。物語は、ビザンチン帝国統治下のエジプトを舞台に、修道士アタナエルが高級娼婦タイスをキリスト教に改宗させようとする姿を描いています。しかし、アタナエルの執着は欲望に変わり、タイスの純粋さが彼の偽善を浮き彫りにします。この作品は、宗教的なエロティシズムを含んでいるとして、多くの議論を呼びました。

小説とオペラでは、いくつかの相違点があります。例えば、小説に登場する修道士パフニュスは、オペラではアタナエルに変更されています。また、タイスの過去に関する記述も省略されています。オペラでは、アタナエルがタイスの元に倒れるという結末になっています。

初演とその後の評価

『タイス』は、イタリアやアメリカ合衆国、イギリスなど世界各地で初演され、20世紀初頭にはアメリカで特に人気を博しました。メアリー・ガーデンやジェラルディン・ファーラーといった名歌手がタイス役を演じ、作品の魅力を広めました。日本初演は1921年、邦人による初演は1956年に行われました。

2つの版の違い

オリジナル版と改訂版では、第3幕にアタナエルの「誘惑の場面」の有無や、第1場の構成などに違いがあります。また、改訂版ではバレエの場面が追加されています。オリジナルの「誘惑の場面」は、現在ではオペラから派生したバレエ組曲として演奏されることがあります。

あらすじ

物語は、修道士アタナエルが、アレクサンドリアの高級娼婦タイスを改宗させようとするところから始まります。アタナエルは、タイスを誘惑から救い出そうとしますが、次第に彼女への欲望に翻弄されます。一方、タイスはアタナエルの言葉に心を動かされ、改宗を決意します。しかし、砂漠での苦行を経て尼僧となったタイスは、死を迎える直前に至福の境地に達します。アタナエルは、タイスを愛していることに気づき、絶望に打ちひしがれます。

『タイスの瞑想曲』

『タイスの瞑想曲』は、オペラの中で最も有名な楽曲です。ヴァイオリンの美しい旋律が、タイスの心の変化とアタナエルの葛藤を表現しています。コンサートピースとしても広く親しまれており、様々な楽器のために編曲されています。

『タイス』は、愛と信仰、欲望と純粋さといった普遍的なテーマを描いた作品です。美しい音楽とドラマチックな展開は、観る者の心を深く揺さぶります。

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