タイニーゼビウス

『タイニーゼビウス』は、1980年代に一世を風靡したナムコ（現：バンダイナムコエンターテインメント）のアーケードゲーム『ゼビウス』を、当時のパーソナルコンピュータ向けに移植した作品群の中で、オリジナルの正式名称使用が許可されなかったバージョンに付けられた名称です。この名前は、主に1984年にPC-6001向けにマイコンソフトから発売されたバージョンと、1986年に雑誌『Oh!MZ』に掲載されたMZ-700向けのバージョンの二つを指します。

PC-6001版『タイニーゼビウス』

当時、人気絶頂だった『ゼビウス』のパーソナルコンピュータへの移植としては、PC-6001版が最も早い時期に製品化されました。その開発を手掛けたのは、当時まだ中学生だった松島徹氏です。彼が試作したプログラムを電波新聞社に持ち込んだところ、マイコンソフトのプロデューサーである藤岡忠氏の目に留まり、製品として世に出ることになりました。

しかし、当時のPC-6001のハードウェアスペックは、最新アーケードゲームの忠実な再現には大きな壁となりました。特に、128×192ドットという低解像度と4色表示というグラフィック性能の限界は、美麗なアーケード版のビジュアルや滑らかな動きを再現する上で、避けては通れない制約でした。結果として完成したゲームは、登場するキャラクターの種類や面数こそアーケード版とほぼ同様であったものの、グラフィックの表現、各面の構成、キャラクターの挙動といった点で、オリジナル版とは異なる部分が多く存在しました。

これらの相違点があったため、ナムコは正式なタイトル名である『ゼビウス』の使用を許可せず、代わりに「小さい」という意味合いを含む『タイニーゼビウス』という名称が採用されました。本バージョンはカセットテープ形式での販売となりました。

オリジナル版との主な違いは以下の通りです。

マップの構成がアーケード版とは全く異なります。
ギドスパリオ、テラジ、ガルザカート、ドモグラム、ボザログラムといった一部の敵キャラクターが登場しません。
地上物のソルが、特定の場所や条件によらずランダムに出現する傾向があります。
アンドアジェネシスの特定の破壊可能部位であるアルゴを破壊することができません。
ゲーム内に隠されたスペシャルフラッグは出現しません。
ザカートのグラフィックが敵弾であるスパリオと同じで、挙動も弾に近い扱いとなっています。
* ザカートは登場後にテレポートで消滅する動作を行いません。

MZ-700版『タイニーゼビウス』

1986年には、シャープのMZ-700向けに『ゼビウス』が移植され、雑誌『Oh!MZ』の11月号にプログラムリストとして掲載されました。この移植は、PC-6001版に触発された当時高校生の古籏一浩氏によって制作されました。MZ-700版も、アーケード版のマップ構成をベースにしつつ制作されています。

古籏氏は当初、電波新聞社に数回にわたりプログラムを持ち込みましたが、製品化には至りませんでした。そこで、『Oh!MZ』編集部に「版権問題があるため投稿ではない」ことを明記した上でプログラムを送付しました。これを受け、編集部からの連絡があり、当時の編集長がナムコを直接説得し、ライセンス料を支払うことで雑誌掲載が実現するという、異例の経緯を辿りました。

MZ-700はグラフィック画面を持たない機種であり、本移植版は40文字×25行のテキスト画面と8色表示という環境下で、テキストキャラクターのみを用いてゲーム画面が表現されています。BGMや効果音は単音での出力となります。キャラクター構成や面の流れはアーケード版を基本的に踏襲していますが、こちらもザカートなど一部キャラクターが存在しない、ソルの出現数がアーケード版より多いといった違いがあります。地上マップは、面の前半部分はアーケード版に比較的忠実ですが、メモリ容量の制限から後半部分はやや圧縮された構成となっています。

このMZ-700版『タイニーゼビウス』の掲載は、『Oh!MZ』誌において、当時既に旬を過ぎつつあったMZ-700というハードウェアの可能性が再評価されるきっかけとなり、その後多くのプログラム掲載や特集が組まれることにつながりました。

なお、MZ-700の後継機であるMZ-1500で動作させた場合、MZ-700との互換性は保たれるものの、MZ-1500のステレオ対応回路構成の特性から、ゲーム中の音声が片側スピーカーからのみ出力されるという現象が発生します。

続編：『タイニーゼビウス mkII』

PC-6001版の好評を受け、PC-6001mkII向けに改良版である『タイニーゼビウス mkII』が発売されました。PC-6001mkIIは初代よりもハードウェア性能が向上しており、画面解像度が倍になるなど表現力が強化されました。これにより、マップ構成や登場する敵キャラクターはよりアーケード版に近いものとなり、ゲーム内容は大きく進歩しました。

しかし、グラフィックの精細さについては全面的な改善とまでは言えず、アーケード版との差異が依然として存在したため、タイトルに「タイニー」の名前が冠されたままとなりました。プログラム開発は前作と同じく松島徹氏が担当しています。メディアはカセットテープに加え、フロッピーディスク版も登場しました。

『タイニーゼビウス』シリーズは、当時のハードウェアの制約に挑戦しながら人気タイトルを移植しようとした試みであり、その限界ゆえに独自の進化を遂げた存在として、レトロゲーム史において特異な位置を占めています。

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