タウン級駆逐艦

タウン級駆逐艦:英米間の協定が生んだ多国籍駆逐艦



タウン級駆逐艦は、1940年に締結された英米間の駆逐艦・基地建設権取引協定に基づき、アメリカ海軍からイギリス海軍へ譲渡された駆逐艦群です。アメリカ海軍では、コールドウェル級、ウィックス級、クレムソン級という3つの艦級に分類されていましたが、設計上の連続性から、イギリス海軍ではこれらをまとめてタウン級として扱いました。その特徴的な4本の煙突から、「フォー・パイパーズ」や「フォー・スタッカーズ」という愛称で親しまれました。

これらの駆逐艦は主にイギリス海軍で運用されましたが、一部はカナダ海軍にも譲渡され、さらには退役後にノルウェー、オランダ、ソビエト連邦などの海軍でも使用されました。命名規則も特徴的で、イギリス海軍ではアメリカとイギリス連邦に共通する町の名前が、カナダ海軍ではアメリカとカナダの国境を流れる河川名が採用されました。例外として、ノバスコシア州のアナポリス川の名前は、アメリカ海軍兵学校の通称との関連から特別に用いられました。

特徴と課題:老朽化と戦場での役割



タウン級駆逐艦は、同時期にイギリス海軍で運用されていたV・W級駆逐艦と同様、乗組員からは必ずしも好まれた艦ではありませんでした。老朽化が進み、航行時の揺れが激しく、艦内の居住環境は劣悪でした。特に艦幅が狭いために「ニシンのはらわた」と揶揄されることもありました。また、2つのスクリューが同一方向に回転するため、操舵の難易度が高く、旋回半径も広いなど、対潜戦には不向きな点が多かったと言えます。さらに、ガラス張りの艦橋は夜間活動時に反射による発見を招く可能性があり、好まれませんでした。

しかし、1940年当時、ドイツ海軍は大西洋沿岸の軍港に多くのUボートを配備し、イギリス船団への攻撃を激化させていました。このような状況下で、タウン級駆逐艦は多くの欠点を抱えながらも、貴重な戦力として大西洋での船団護衛任務に投入されることになったのです。

武装と改修:対潜戦への適応



アメリカ海軍時代の標準的な武装は、50口径4インチ砲4門、23口径3インチ砲1門、魚雷発射管12本でした。しかし、イギリス海軍では航行時の安定性を確保するため、各艦から4インチ砲1門と魚雷発射管6本が取り外されました。さらに、対潜戦能力を重視した23隻は、2門の4インチ砲と3本の魚雷発射管が除去され、代わりに爆雷投射機やヘッジホッグ対潜迫撃砲が搭載されました。

数々の戦歴と著名な艦



タウン級駆逐艦の中でも特に有名なのが、HMSキャンベルタウンです。旧アメリカ海軍のUSSブキャナンとして建造されたこの艦は、チャリオット作戦において、サン=ナゼール港のノルマンディ・ドックへ突入する火船として使用され、作戦成功に大きく貢献しました。この作戦により、ドイツ海軍の戦艦ティルピッツの大西洋進出が阻止されたと言われています。

チャリオット作戦を題材とした1952年の映画『封鎖作戦』の撮影には、タウン級駆逐艦の最後の1隻であったHMSレミントン(旧USSツイッグス)が使われました。レミントンは自力航行が可能な最後のタウン級駆逐艦であったことから、撮影に選ばれたのです。

タウン級駆逐艦一覧



旧コールドウェル級
HMS リーズ (HMS Leeds) - 旧USS コナー (USS Conner)
HMS ルイス (HMS Lewes) - 旧USS クレイヴン (USS Craven)
HMS ラドロー (HMS Ludlow) - 旧USS ストックトン (USS Stockton)

旧ウィックス級
HMS キャッスルトン (HMS Castleton) - 旧USS アーロン・ワード (USS Aaron Ward)
HMS チャールズタウン (HMS Charlestown) - 旧USS アボット (USS Abbot)
HMS キャンベルタウン (HMS Campbeltown) - 旧USS ブキャナン (USS Buchanan)
HMS ソールズベリー (HMS Salisbury) - 旧USS クラクストン (USS Claxton)
HMS ブライトン (HMS Brighton) - 旧USS コーウェル (USS Cowell)
HMS チェルシー (HMS Chelsea) - 旧USS クラウニンシールド (USS Crowninshield)
HMS セント・メリーズ (HMS St. Marys) - 旧USS ドラン (USS Doran)
HMS マンスフィールド (HMS Mansfield) - 旧USS エヴァンズ (USS Evans)
HMS リッチモンド (HMS Richmond) - 旧USS フェアファックス (USS Fairfax)
HMS ロックスボロー (HMS Roxborough) - 旧USS フート (USS Foote)
HMS コールドウェル (HMS Caldwell) - 旧USS ヘイル (USS Hale)
HMS コロンビア (HMS Columbia) - 旧USS ハラデン (USS Haraden)
HMS バス (HMS Bath) - 旧USS ホープウェル (USS Hopewell)
HMS ハミルトン (HMS Hamilton) - 旧USS カーク (USS Kalk)
HMCS アナポリス (HMCS Annapolis) - 旧USS マッケンジー (USS MacKenzie)
HMS ジョージタウン (HMS Georgetown) - 旧USS マドックス (USS Maddox)
HMS ランカスター (HMS Lancaster) - 旧USS フィリップ (USS Philip)
HMS ニューアーク (HMS Newark) - 旧USS リングゴールド (USS Ringgold)
HMS ニューマーケット (HMS Newmarket) - 旧USS ロビンソン (USS Robinson)
HMS ニューポート (HMS Newport) - 旧USS シガニー (USS Sigourney)
HMCS ナイアガラ (HMCS Niagara) - 旧USS サッチャー (USS Thatcher)
HMS セント・オールバンズ (HMS St. Albans) - 旧USS トーマス (USS Thomas)
HMS ウェルズ (HMS Wells) - 旧USS ティルマン (USS Tillman)
HMS レミントン (HMS Leamington) - 旧USS ツイッグス (USS Twiggs)
HMS モントゴメリー (HMS Montgomery) - 旧USS ウィックス (USS Wickes)
HMCS セント・クレア (HMCS St. Clair) - 旧USS ウィリアムス (USS Williams)
HMS リンカーン (HMS Lincoln) - 旧USS ヤーネル (USS Yarnall)

旧クレムソン級
HMS クレア (HMS Clare) - 旧USS エイベル・P・アップシャー (USS Abel P. Upshur)
HMS バーナム (HMS Burnham) - 旧USS オーリック (USS Aulick)
HMS リーディング (HMS Reading) - 旧USS ベイリー (USS Bailey)
HMCS サン・フランシス (HMCS St. Francis) - 旧USS バンクロフト (USS Bancroft)
HMS ビバリー (HMS Beverley) - 旧USS ブランチ (USS Branch)
HMS バクストン (HMS Buxton) - 旧USS エドワーズ (USS Edwards)
HMS チャーチル (HMS Churchill) - 旧USS ハーンドン (USS Herndon)
HMS ブロードウェイ (HMS Broadway) - 旧USS ハント (USS Hunt)
HMS バーウェル (HMS Burwell) - 旧USS ローブ (USS Laub)
HMS ブロードウォーター (HMS Broadwater) - 旧USS メイソン (USS Mason)
HMS スタンリー (HMS Stanley) - 旧USS マッカラ (USS McCalla)
HMCS セント・クロイ (HMCS St. Croix) - 旧USS マクック (USS McCook)
HMS ブラッドフォード (HMS Bradford) - 旧USS マクラナハン (USS McLanahan)
HMS ラムジー (HMS Ramsey) - 旧USS ミード (USS Meade)
HMS シャーウッド (HMS Sherwood) - 旧USS ロジャース (USS Rodgers)
HMS ベルモント (HMS Belmont) - 旧USS サタリー (USS Satterlee)
HMS リプリー (HMS Ripley) - 旧USS シャブリック (USS Shubrick)
HMS ロッキンガム (HMS Rockingham) - 旧USS スウェジー (USS Swasey)
HMS チェスターフィールド (HMS Chesterfield) - 旧USS ウェルボーン・C・ウッド (USS Welborn C. Wood)
HMS キャメロン (HMS Cameron) - 旧USS ウェレス (USS Welles)



タウン級駆逐艦は、その出自や性能、そして数多くの艦が辿った歴史を通して、第二次世界大戦という激動の時代を象徴する存在と言えるでしょう。

もう一度検索

【記事の利用について】

タイトルと記事文章は、記事のあるページにリンクを張っていただければ、無料で利用できます。
※画像は、利用できませんのでご注意ください。

【リンクついて】

リンクフリーです。