タオカス族

台湾先住民道卡ス族：歴史、文化、そして伝統行事

道卡ス族は、台湾の平埔族に分類される先住民族です。かつては桃園市、新竹県、苗栗県、台中市周辺に居住し、独自の言語であるタオカス語を話していました。漢字では「道卡斯族」「斗葛族」「大甲族」など複数の表記が見られます。

道卡ス族の歴史は、18世紀まで遡ります。1732年まで存在した大肚王国の構成民族の一つとして、独自の社会と文化を築いていました。しかし、18世紀以降、中国大陸からの漢民族の移住が本格化すると、道卡ス族は土地や生活基盤を奪われるなど、厳しい圧迫を受けるようになりました。1814年の郭百年事件はその象徴的な出来事と言えるでしょう。

こうした圧迫の中で、一部の道卡ス族は南投県埔里盆地へと移住し、房裡社（現在の南投県埔里鎮房里里）などの集落を形成しました。現在も苗栗県後龍鎮新民里や南投県埔里鎮房里里には道卡ス族のコミュニティがあり、母語や伝統的な祭礼を伝承しています。

道卡ス族の伝統行事

道卡ス族は、祖霊を敬い、自然と共存する豊かな文化を有しています。その文化を象徴するのが、彼らが現在も継承する独特の祭礼です。主な祭礼として、新港社（現在の苗栗県後龍鎮新民里）で行われる『牽田祭』と、房裡社で行われる『Emalo祖霊祭』があります。

牽田祭

牽田祭は、旧暦8月15日前後に開催される重要な祭礼です。祭りの前には、『Patay（祖霊祭）』が行われます。これは男性のみが参加を許され、鹿肉、酒、魚、蒸し飯、豚肉などを供え、母語で先祖に祈りを捧げる儀式です。

牽田祭当日には、まず成年式『Mata』が行われます。これはマラソン形式の長距離走で、参加者たちは祖霊がいるとされる大潭という淵や池に集まり、正座して祖霊を拝み、供え物を水に投じた後、走り戻ります。優勝者には、鹿の角で飾られた鉢巻きや帽子が授与されます。

夕暮れ時には、『扮番』と呼ばれる男性が蓑と笠を身につけ、銅鑼を打ち鳴らしながら町内を巡り、祭りの開催を知らせます。かつては鹿の皮の衣装を着ていたと言われています。

夜には『舉大旗』の儀式が行われます。『issama』と呼ばれる3人の男性が、高さ約6～7メートルの竹で作った旗竿を背負い、祭りの広場に入場します。旗竿には鈴と赤リボンが飾り付けられ、白布の旗がはためきます。旗を倒してしまうことは不吉とされ、祭りの間は細心の注意が払われます。旗を背負う『issama』には、既婚2年以内、身内に不幸がないなどの資格基準がありました。

祭りのクライマックスでは、老若男女が手を繋いで輪になり、足踏み踊りを行いながら、祖霊を祀る歌を歌います。『issama』3人も、銅鑼の音に合わせて踊りに参加します。歌は3曲あり、「牽大田（旗頭）」は先祖への捧げる歌、「牽小田」と「旗尾」は先祖を見送る歌で、それぞれ異なる雰囲気を持っています。

Emalo祖霊祭

Emalo祖霊祭は、房裡社で行われる祖霊祭です。伊能嘉矩と淺井惠倫の調査によると、旧暦7月に開催されていたとされていますが、正確な開催日は部落によって異なっていたようです。

この祭礼では、『Mata』競走が行われ、優勝者は担当者の家族に譲られることが多かったようです。目上の女性が水源地で先祖の精霊を迎え、家に連れ戻し、銅鑼を鳴らして祭りの開催を知らせます。祭りの広場では、握り飯、魚、酒、鹿肉、アラ粿などを供え、先祖に祈りを捧げます。参加者たちは手を繋いで踊り、「emalo～emalo～」の歌を歌いながら、先祖を偲び、供え物を自由に取ります。

道卡ス族の伝統行事を通して、彼らは先祖を敬い、自然と共存する精神を受け継ぎ、現在もその文化を守り続けています。彼らの文化の理解を深めるためには、継続的な研究と記録、そして文化遺産の保護が不可欠です。

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