タカタ (企業)

タカタ株式会社は、かつて日本の主要な自動車用安全部品メーカーとして知られていました。シートベルト、チャイルドシート、そしてエアバッグといった製品を通じて、世界の自動車産業における安全技術の一翼を担っていた企業です。

創業は1933年、滋賀県彦根市で高田武三氏が高田工場として織物製造を始めたことに遡ります。当初は織物工場でしたが、日本の軍事政策の中で救命索や軍事用パラシュートの製造を手がけるようになります。第二次世界大戦後、創業者はパラシュート研究のために渡米した際、戦死よりも交通事故による死者が多いという現実に衝撃を受け、これが自動車用安全部品、特にシートベルト開発の大きな動機となりました。

法人化を経て、タカタは1960年に日本で初めてとなる二点式シートベルトの製造・販売を開始します。1963年には、ホンダの量産車であるS500にタカタ製のシートベルトが標準搭載され、これは量産車におけるシートベルト標準装備の先駆けとなりました。また、1977年には日本初のチャイルドシート「ガーディアン」を発表するなど、早くから製品ラインナップを広げていきます。1983年に社名をタカタ株式会社に変更した後、1987年にはホンダと共同で日本初の国産エアバッグを開発し、初代ホンダ・レジェンドに搭載するなど、エアバッグの分野にも本格的に参入しました。

エアバッグ事業は特に成長し、2011年には世界市場で約20%のシェアを獲得、2014年時点では同社最大の売上高を占めるに至りました。シートベルトも同時期に約20%の世界シェアを持っており、タカタは自動車安全部品のグローバルプレイヤーとしての地位を確立していました。主要な顧客には、ホンダ、トヨタ、フォード、日産といった世界の主要自動車メーカーが含まれていました。国内の製造拠点は創業地の彦根市を中心に、長浜市や愛荘町といった滋賀県内に集中していました。

しかし、タカタの歴史は悲劇的な結末を迎えます。主力製品であったエアバッグに使用されていたインフレーター（膨張装置）の欠陥が、大規模な問題へと発展したのです。エアバッグの作動には火薬（プロペラント）が用いられますが、タカタが安価で小型化に有利な硝酸アンモニウムを導入したことが問題の根源となりました。硝酸アンモニウムは温度や湿度の変化に弱く、長期経過や環境変化によって分解が進みパウダー状になりやすい特性を持っていました。これにより、エアバッグ展開時に異常な速度で燃焼し、インフレーター容器が破裂、金属片が飛散するという重大な事故につながる可能性があったのです。

2008年頃からこの問題による不具合が相次いで報告され、米国やマレーシアでは死亡事故も発生しました。これを受けて、2008年11月以降、タカタ製エアバッグを搭載した車両に対する大規模なリコールが断続的に実施されます。問題の深刻化に伴い、対象車両は累計で数千万台、最終的には全世界で1億台を超える規模に膨れ上がり、その費用は総額1兆円に上ると推定されました。

米国の国家道路交通安全局（NHTSA）は、タカタが問題への対応や情報開示を怠ったとして、2015年に過去最高額となる最大2億ドルの民事制裁金を科すなど、当局からの厳しい追及を受けます。さらに、最大顧客であったホンダをはじめ、多くの自動車メーカーがタカタ製インフレーターの新規採用を見合わせると表明するなど、顧客からの信頼も大きく損なわれました。

これらの巨額のリコール費用、訴訟費用、そして失われた信頼は、タカタの経営を決定的に悪化させました。そして2017年6月26日、タカタ株式会社は東京地方裁判所に民事再生法の適用を申請し、負債総額1兆円を超える戦後日本の製造業としては過去最大の経営破綻となりました。

破綻後、エアバッグ事業を含むタカタの中核事業は、中国の寧波均勝電子の子会社であるキー・セイフティー・システムズ（後のジョイソン・セイフティ・システムズ）に譲渡されました。タカタ株式会社本体はTKJP株式会社に商号を変更し、リコール対応など債務処理にあたることになりました。

タカタはかつて、SUPER GTのTAKATA童夢NSXのメインスポンサーを務めるなど、積極的な広報活動も行っていましたが、晩年はエアバッグ問題と並行して、下請会社に対する不当な代金減額で公正取引委員会から勧告を受けるといった不祥事も報じられています。

織物業から安全部品メーカーへと転身し、世界市場で大きなシェアを獲得するまでに成長したタカタ株式会社の歴史は、技術的な問題と企業対応の失敗が複合的に作用し、最終的に未曽有の経営破綻に至った事例として記憶されています。その事業は現在、ジョイソン・セイフティ・システムズによって引き継がれています。

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