タキン党
タキン党（タキンとう）は、1930年にビルマ（現ミャンマー）で誕生した民族主義的な政治結社です。その正式名称はビルマ語で「われらビルマ人連盟」（ドバマ・アシアヨン）といいます。この結社が広く「タキン党」として知られるようになったのは、その名称に込められた強い意志に由来します。
当時のビルマはイギリスの植民地支配下にあり、イギリス人支配者に対して「タキン」（主人）と呼びかけることが強制されていました。これに対し、「真のタキン、すなわち主人とはビルマ人自身である」という民族の誇りを示すため、結社のメンバーがお互いの名前の前に「タキン」と付けて呼び合ったことから、「タキン党」という通称が定着しました。この名称自体が、植民地支配に対する明確な抵抗の表明だったのです。
タキン党は1930年5月、ラングーン大学の助手であったバ・タウン氏を中心に設立されました。結成の背景には、同年5月26日にラングーンで発生した、ビルマ人とインド人の港湾労働者間の衝突事件がありました。設立当初は数人の青年による小さな組織でしたが、思想的には伝統的な仏教民族主義と新しい政治的理想を融合させたものでした。組織のスローガンとして掲げられた「ビルマは我々の国、ビルマ文学は我々の文学、ビルマ語は我々の言語」は、ビルマ民族のアイデンティティと独立への強い願望を端的に示しています。タキン党は、当時のビルマにおける政治意識の高揚に大きく貢献し、その活動の多くはラングーン大学を拠点とし、学生を中心に支持を広げていきました。
やがて、ソーやタン・トゥンといった共産主義の思想を持つ者たち、さらにはアウンサンやウー・ヌといったラングーン大学の著名な学生運動指導者が参加したことで、組織は質的に強化されました。これにより、タキン党は反英独立を明確な旗印とする民族主義団体へと成長し、ビルマ独立運動の母体となっていきます。既存の政党が外資や仏教僧からの支援に依存していたのに対し、タキン党は独自の財源で活動し、英国当局との妥協を拒む姿勢を貫きました。また、独自の準軍事組織「レティオンタット」を結成するなど、組織的な活動を展開しました。
組織は拡大を続け、1935年には密接な関係にあった全ビルマ青年同盟を統合しました。1936年には「Komin Kochin Aphwe」（自分の王、自分の親切な党）という名義で選挙に臨み、28人の候補者を擁立して3議席を獲得しました。選挙での議席獲得後、組織は一時的に活動を停止しましたが、1936年の学生ストライキに参加していたアウンサンやウー・ヌといった新しい指導者のもと、1937年に活動を再開します。この過程で、旧来の指導者と新しい左翼的傾向を持つ指導者の間で意見の対立が生じ、組織内に分裂が見られました。
1930年代後半にかけて、タキン党はビルマで最も有力な民族主義グループの一つとして存在感を増していきました。彼らは目的達成のために、ストライキや武力行使といった手段を用いることも辞しませんでした。1937年には若い弁護士であったアウンサンがタキン党の主要なリーダーとして登場します。1939年にはタキン党が当時のバー・モウ政権を崩壊させるなど、政治の中心舞台に関与するようになりました。1940年には、タキン党はバー・モウ氏が率いる貧民党と合併して「自由ブロック」を結成しますが、その裏では秘密裏に「人民革命党」を設立するなど、複雑な政治戦略を展開しました。
第二次世界大戦後、1946年には創設メンバーの一部によって新しい「われらビルマ人連盟」が設立されましたが、かつてのような広範な支持を得ることはできませんでした。それでも、一部のメンバーは政治的な役割を果たし、組織は1950年代まで存続しましたが、選挙で大きな成功を収めることはありませんでした。
タキン党の歴史における最も重要な業績の一つは、後のビルマ独立軍（BIA）の結成に貢献したことです。1940年、日本陸軍の鈴木敬司大佐は、ビルマの独立運動を支援するため、「南機関」を組織し、アウンサンやネ・ウィンを含む30人のタキン党員を選抜して、日本占領下の台湾や海南島で軍事訓練を行いました。この30人は後に「三十人の志士」として知られるようになり、彼らが約8000人にまで拡大するビルマ独立軍の創設メンバーとなりました。1941年末から1942年初めにかけて日本軍がビルマに侵攻すると、ビルマ独立軍は日本軍と協力してイギリス軍をビルマから駆逐する戦いに参加しました。1943年8月1日、日本はビルマに名目的な独立を認め、ビルマ独立軍はビルマ国民軍（BNA）と改称されました。しかし、1945年3月になると、ビルマ国民軍は日本がイギリスに取って代わっただけで、真の独立が達成されていないことを悟り、イギリス軍（英国第14軍）がラングーンに進攻するのに合わせて、日本軍に対して蜂起しました。この独立軍の活動は、後のミャンマー国軍の基礎を築くことにも繋がりました。
また、タキン党の党歌であった「ミャンマー・ガバ・マ・チェ」（「世界の果てまでビルマ」の意）は、ビルマ初の民族の歌となり、後にミャンマー連邦の国歌となりました。この曲はサヤ・ティン（後のタキン・ティン）によって作曲され、日本占領下のビルマの象徴とされ、1948年の独立時に正式な国歌として採用されました。
タキン党からは、ビルマの独立運動を主導し、後に国家の指導者となる多くの人材が輩出されました。
著名な党員（一部）
アウンサン
ネ・ウィン
ウー・ヌ
タキン・コドー・フマイン
タキン・ソー
タキン・タントゥン
タキン党は、その短い活動期間ながら、ビルマの独立運動と近代政治史に indelible な足跡を残した重要な組織です。
当時のビルマはイギリスの植民地支配下にあり、イギリス人支配者に対して「タキン」（主人）と呼びかけることが強制されていました。これに対し、「真のタキン、すなわち主人とはビルマ人自身である」という民族の誇りを示すため、結社のメンバーがお互いの名前の前に「タキン」と付けて呼び合ったことから、「タキン党」という通称が定着しました。この名称自体が、植民地支配に対する明確な抵抗の表明だったのです。
タキン党は1930年5月、ラングーン大学の助手であったバ・タウン氏を中心に設立されました。結成の背景には、同年5月26日にラングーンで発生した、ビルマ人とインド人の港湾労働者間の衝突事件がありました。設立当初は数人の青年による小さな組織でしたが、思想的には伝統的な仏教民族主義と新しい政治的理想を融合させたものでした。組織のスローガンとして掲げられた「ビルマは我々の国、ビルマ文学は我々の文学、ビルマ語は我々の言語」は、ビルマ民族のアイデンティティと独立への強い願望を端的に示しています。タキン党は、当時のビルマにおける政治意識の高揚に大きく貢献し、その活動の多くはラングーン大学を拠点とし、学生を中心に支持を広げていきました。
やがて、ソーやタン・トゥンといった共産主義の思想を持つ者たち、さらにはアウンサンやウー・ヌといったラングーン大学の著名な学生運動指導者が参加したことで、組織は質的に強化されました。これにより、タキン党は反英独立を明確な旗印とする民族主義団体へと成長し、ビルマ独立運動の母体となっていきます。既存の政党が外資や仏教僧からの支援に依存していたのに対し、タキン党は独自の財源で活動し、英国当局との妥協を拒む姿勢を貫きました。また、独自の準軍事組織「レティオンタット」を結成するなど、組織的な活動を展開しました。
組織は拡大を続け、1935年には密接な関係にあった全ビルマ青年同盟を統合しました。1936年には「Komin Kochin Aphwe」（自分の王、自分の親切な党）という名義で選挙に臨み、28人の候補者を擁立して3議席を獲得しました。選挙での議席獲得後、組織は一時的に活動を停止しましたが、1936年の学生ストライキに参加していたアウンサンやウー・ヌといった新しい指導者のもと、1937年に活動を再開します。この過程で、旧来の指導者と新しい左翼的傾向を持つ指導者の間で意見の対立が生じ、組織内に分裂が見られました。
1930年代後半にかけて、タキン党はビルマで最も有力な民族主義グループの一つとして存在感を増していきました。彼らは目的達成のために、ストライキや武力行使といった手段を用いることも辞しませんでした。1937年には若い弁護士であったアウンサンがタキン党の主要なリーダーとして登場します。1939年にはタキン党が当時のバー・モウ政権を崩壊させるなど、政治の中心舞台に関与するようになりました。1940年には、タキン党はバー・モウ氏が率いる貧民党と合併して「自由ブロック」を結成しますが、その裏では秘密裏に「人民革命党」を設立するなど、複雑な政治戦略を展開しました。
第二次世界大戦後、1946年には創設メンバーの一部によって新しい「われらビルマ人連盟」が設立されましたが、かつてのような広範な支持を得ることはできませんでした。それでも、一部のメンバーは政治的な役割を果たし、組織は1950年代まで存続しましたが、選挙で大きな成功を収めることはありませんでした。
タキン党の歴史における最も重要な業績の一つは、後のビルマ独立軍（BIA）の結成に貢献したことです。1940年、日本陸軍の鈴木敬司大佐は、ビルマの独立運動を支援するため、「南機関」を組織し、アウンサンやネ・ウィンを含む30人のタキン党員を選抜して、日本占領下の台湾や海南島で軍事訓練を行いました。この30人は後に「三十人の志士」として知られるようになり、彼らが約8000人にまで拡大するビルマ独立軍の創設メンバーとなりました。1941年末から1942年初めにかけて日本軍がビルマに侵攻すると、ビルマ独立軍は日本軍と協力してイギリス軍をビルマから駆逐する戦いに参加しました。1943年8月1日、日本はビルマに名目的な独立を認め、ビルマ独立軍はビルマ国民軍（BNA）と改称されました。しかし、1945年3月になると、ビルマ国民軍は日本がイギリスに取って代わっただけで、真の独立が達成されていないことを悟り、イギリス軍（英国第14軍）がラングーンに進攻するのに合わせて、日本軍に対して蜂起しました。この独立軍の活動は、後のミャンマー国軍の基礎を築くことにも繋がりました。
また、タキン党の党歌であった「ミャンマー・ガバ・マ・チェ」（「世界の果てまでビルマ」の意）は、ビルマ初の民族の歌となり、後にミャンマー連邦の国歌となりました。この曲はサヤ・ティン（後のタキン・ティン）によって作曲され、日本占領下のビルマの象徴とされ、1948年の独立時に正式な国歌として採用されました。
タキン党からは、ビルマの独立運動を主導し、後に国家の指導者となる多くの人材が輩出されました。
著名な党員（一部）
アウンサン
ネ・ウィン
ウー・ヌ
タキン・コドー・フマイン
タキン・ソー
タキン・タントゥン
タキン党は、その短い活動期間ながら、ビルマの独立運動と近代政治史に indelible な足跡を残した重要な組織です。
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