タギシュ・レイク隕石

タギシュ・レイク隕石：太陽系形成の謎を解き明かす貴重なサンプル

2000年1月18日、カナダのユーコン準州とブリティッシュコロンビア州にまたがるタギシュ湖付近に、ひとつの隕石が落下しました。それが、タギシュ・レイク隕石です。この隕石は、その落下時の様子や、回収されたサンプルの分析結果から、多くの科学者たちの注目を集めることとなりました。

落下と回収

午後4時43分（UTC）、上空約50～30kmで隕石は大気圏に突入し、1.7キロトンのエネルギーを放出して爆発しました。ユーコン準州南部とブリティッシュコロンビア州北部では、明るい火球が目撃され、その後、約500個の破片が氷結した湖面から回収されました。落下範囲には、さらに多くの破片があったと考えられています。この火球の軌跡は、人工衛星データや流星痕から特定され、高高度での爆発は地震計にも記録されました。目撃者の中には、硫黄の匂いを感じたという証言もあり、当初はミサイルの誤爆との誤解もあったほどです。

最初の破片は落下から約1週間後に地元住民によって発見されました。その後、カルガリー大学やウェスタンオンタリオ大学の研究者らが雪解けを待って捜索を行い、多くの破片を回収しました。回収された破片の多くは氷の中に埋まっており、その状態から、隕石は比較的汚染のない状態で保存されていたことがわかります。

隕石の特徴

回収されたタギシュ・レイク隕石の破片は、暗灰色から黒に近い色で、明るい色の小さな含有物を含んでいます。表面は融解した跡があり、内部は木炭のような見た目です。総重量は850g以上で、そのうち、最も大きな破片は約2.3kgありました。

科学的分類と分析

タギシュ・レイク隕石は、炭素質コンドライトに分類され、岩石学的タイプは2とされています。しかし、化学的グループは既存の分類に当てはまらず、未分類（C2）とされています。

分析の結果、この隕石は太陽系形成初期の物質をそのまま含む、非常に始原的な隕石であることがわかりました。太陽系を形成した星間塵の粒子が、そのままの状態で見つかったのです。また、アミノ酸などの有機物も豊富に含まれており、その起源は生命活動ではなく、星間物質や太陽系の原始惑星系円盤であると考えられています。さらに、他のどの隕石よりも多くのナノダイヤモンドを含んでいることも特徴です。

起源と軌道

火球の目撃情報と流星痕の軌跡から、地球到達前の隕石の軌道が計算されました。その結果、タギシュ・レイク隕石はアポロ群小惑星と似た軌道をとっており、小惑星帯外縁部から飛来したことがわかりました。反射スペクトルの分析から、D型小惑星が起源と考えられており、(308) ポリクソや(773) イーミントラウトなどが母天体の候補として挙げられています。

まとめ

タギシュ・レイク隕石は、その落下時の様子、回収されたサンプルの状態、そしてその組成から、太陽系形成初期の研究において非常に貴重なサンプルとして扱われています。今後も、この隕石の分析を通して、太陽系の起源や進化に関する新たな知見が得られることが期待されています。その始原的な組成、豊富な有機物、そしてナノダイヤモンドの存在は、太陽系の歴史を紐解く上で重要な手がかりとなるでしょう。

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