タヌリ

韓国初の月探査プロジェクトとして注目される「タヌリ」（正式名称：韓国型月探査パスファインダー、韓国語名：다누리、英語名：Korea Pathfinder Lunar Orbiter - KPLO）は、韓国の宇宙開発における重要な一歩を示す探査機です。その主要な任務は、月の軌道から月面、特に日光が当たらない永久影領域に隠されている可能性のある水やその他の揮発性物質の痕跡を探査すること、また将来の月面着陸ミッションに向けた地形データの収集など多岐にわたります。

打ち上げとその経緯

タヌリを月へ送るための打ち上げには、アメリカの宇宙開発企業スペースXが製造するファルコン9ロケットが使用されました。これは、当時韓国が独自開発したロケット「ヌリ」（KSLV-II）の能力では、探査機を月軌道へ投入するのに十分な推進力がなかったためです。打ち上げは、2022年8月4日にアメリカ合衆国フロリダ州にあるケープカナベラル宇宙軍施設から無事に行われました。打ち上げ成功後、タヌリは約4ヶ月間の飛行を経て、目標としていた月周回軌道への投入を成功させました。これにより、韓国は旧ソ連、アメリカ、日本、欧州宇宙機関（ESA）、中国、インド、イスラエルに次ぐ、7番目に月周回軌道到達を達成した国となりました。

プロジェクトの歴史と国際協力

韓国の月探査計画は、2007年にその構想が初めて示されました。しかし、具体的なプロジェクトとして本格的な検討が開始されたのは2016年になってからです。この間、国際的な協力関係の構築も進められました。2014年7月には、韓国はアメリカ航空宇宙局（NASA）との間で、月探査における協力に関する協定を締結しました。NASAはタヌリのミッション計画、通信、および航法を技術的に支援し、さらに韓国の研究チームをサポートするために9名の科学者を派遣するなど、重要な役割を果たしました。また、韓国はインド政府とも月探査分野での連携について協議を行いましたが、こちらは具体的な協力関係の樹立には至らず、議論の段階に留まっています。

計画の変遷

タヌリの打ち上げ時期は、当初の計画から何度か変更されています。2012年当時、韓国大統領であった朴槿恵氏は、2017年の打ち上げを目指すとしていました。しかし、その後の文在寅政権下で計画が見直され、打ち上げは2020年に変更されました。さらに、2019年には開発や準備の状況を反映して、最終的に2022年の打ち上げへと再延期されました。

搭載観測機器

タヌリには複数の科学観測機器が搭載されていますが、特に注目されるのがNASAが提供した「ShadowCam」です。この機器は、月のクレーター内部など、太陽光が一切届かない永久影領域に存在する水の氷などの揮発性物質の痕跡を探査するために開発されました。重量は約7kgで、アリゾナ大学とマリン・スペース・サイエンス・システムズによって共同開発されました。ShadowCamは、先行するアメリカの月探査機ルナー・リコネサンス・オービター（LRO）に搭載されたカメラと比較して、200倍以上という非常に高い感度を持っています。この高感度を利用して、永久影内部のわずかな光（地球照など）を捉え、これまでは観測が困難であった永久影内の地形を詳細にマッピングすることが可能です。また、永久影内の反射率を精密に調べることにより、水やその他の揮発性物質の分布状況や、季節ごとの変動があるのかどうかを探る重要なデータを提供します。ShadowCamの空間解像度は1ピクセルあたり1.7メートルとなっており、比較的細かい地形や物質の分布を識別する能力を持っています。NASAはこれまでにも、他国の宇宙機関による探査機への観測機器提供を行っており、例えばインド初の月探査機チャンドラヤーン1号には、月の鉱物組成を調べるための観測装置であるムーン・ミネラロジー・マッパー（M3）を提供した実績があります。

タヌリのミッション成功は、韓国の宇宙開発能力を国際的に示すとともに、月の科学的な理解、特に将来の月面活動にとって不可欠となる可能性のある水資源に関する知見を深める上で、重要な貢献を果たすことが期待されています。ミッション期間を通じて得られるデータは、韓国だけでなく国際的な科学コミュニティにも共有され、月の探査と研究のさらなる発展に寄与するでしょう。

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