タビー・ヘイズ

タビー・ヘイズ（Tubby Hayes）

1935年1月30日にロンドンで生まれ、1973年6月8日にわずか38歳で亡くなったタビー・ヘイズは、イギリス・ジャズ界において最も輝かしい才能の一つとして記憶されています。テナー・サクソフォーンとヴィブラフォンを自在に操る彼は、ハード・バップを基盤としながらも、その圧倒的な演奏能力と革新的なアプローチで、ブリティッシュ・ジャズ・シーンを牽引しました。父親がヴァイオリニストであったことから、幼少期から音楽に親しむ環境で育ったと考えられます。

ヘイズの演奏は、そのパワフルさ、そして淀みなく溢れ出るアドリブが最大の特徴でした。ヨーロッパのジャズ・ファンは、彼の漲るエネルギーと技術に魅了されました。キャリアの初期には、同時代の偉大なジャズ・ミュージシャンであるソニー・ロリンズやジョン・コルトレーンの影響が見受けられますが、彼は単なる模倣に留まらず、次第に自身の独特なスタイルを確立していきます。特に後期には、よりメロディアスでありながらも明快で力強い、彼にしか成し得ないハード・バップを展開しました。その卓越した技術と表現力から、「リトル・ジャイアント」という愛称で呼ばれることもありました。

彼は自身のクインテットやカルテット、さらにはビッグバンドを率いて精力的に活動し、数多くの優れたリーダー作品を残しました。また、イギリス・ジャズ界の重鎮であるロニー・スコットと共に結成したジャズ・クーリアーズでの活動も特筆すべきです。ジャズ・クーリアーズは短期間ながら、当時の英国ジャズ・シーンに大きな影響を与えました。その他にも、国内外の著名なミュージシャンとの共演機会にも恵まれ、その音楽的交流は彼のキャリアを豊かにしました。例えば、米国のクラーク・テリーやホレス・パーラン、ウォルター・ビショップ・ジュニア、ジェームス・ムーディといったトッププレイヤーとの共演は、彼の国際的な評価を高める一因となりました。

タビー・ヘイズのディスコグラフィは非常に豊富であり、彼の多岐にわたる活動とその進化を記録しています。中でも、彼の傑作として必ず挙げられるのがいくつかあります。1962年に自身のクインテットで録音されたライブ・アルバム『ダウン・イン・ザ・ヴィレッジ』は、彼の中期における充実した演奏を捉えた名盤です。そして、1967年のカルテット作品『メキシカン・グリーン』は、当時のジャズ界で注目されていたモードの手法を取り入れつつ、革新的なサウンドを追求した作品として、ブリティッシュ・ジャズ史における金字塔と評価されています。

彼はリーダー作だけでなく、多くの録音に参加しています。以下にその作品群の一部を示します。

主要ディスコグラフィ（一部）

アルバム
British Modern Jazz Scene 1956 (1956年)
...After Lights Out (1956年)
Little Giant of Jazz (1957年)
『TUBBY'S GROOVE』 - Tubby's Groove (1960年)
『タブス』 - Tubbs (1961年)
Tubbs In N.Y. (1961年) ※クラーク・テリー、ホレス・パーランら参加
『リターン・ヴィジット!』 - Return Visit! (1963年) ※ジェームス・ムーディ、ローランド・カークら参加
『ダウン・イン・ザ・ヴィレッジ』 - Down In The Village (1963年)
『100%プルーフ』 - 100% Proof (1967年)
『メキシカン・グリーン』 - Mexican Green (1968年)
Grits, Beans and Greens: The Lost Fontana Studio Sessions 1969 (2019年)
その他、多数のライブ盤やコンピレーション

EP
The Little Giant, Volume 1 & 2 (1955年)
The Swinging Giant, Volume 1 & 2 (1955年)

ジャズ・クーリアーズ名義
『タビー・ヘイズ・アンド・ザ・ジャズ・クーリアーズ・フィーチャリング・ロニー・スコット』 - The Jazz Couriers Featuring Ronnie Scott and Tubby Hayes (1957年)
『イン・コンサート』 - In Concert (1958年)

参加アルバム（一部）
ディジー・リース: 『チェンジング・ザ・ジャズ・アット・バッキンガム・パレス』 (1956年)
ヴィクター・フェルドマン: Suite Sixteen (1958年)
ジャック・コスタンゾ: 『イクウエイション・イン・リズム』 (1962年)
ジョン・ダンクワース・アンド・ヒズ・オーケストラ: What the Dickens! (1963年)
ポール・ゴンザルヴェス: Just Friends* (1964年)

タビー・ヘイズは、その短い生涯に驚くほど多くの、そして質の高い音楽を残しました。38歳という若さでの突然の死は、イギリスのみならず世界のジャズ・シーンにとって計り知れない損失でした。しかし、彼が遺した作品は、今なお多くのジャズ・ファンに愛され、ブリティッシュ・ジャズの黄金期を象徴する存在として輝き続けています。

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