タムシバ

モクレン科モクレン属に分類されるタムシバ（学名: Magnolia salicifolia）は、日本に自生する落葉性の高木または低木です。主に本州、四国、九州に分布し、特に日本海側に多く見られます。葉が展開する前の早春に、甘い香りのする白い花を咲かせるのが特徴です。

名称

「タムシバ」という名前の由来には諸説あります。葉に田虫のような斑点が見られるためとする説や、葉を噛むと甘みがあることから「噛む柴（カムシバ）」が転じたとする説などがあります。別名としては、このカムシバや、葉に芳香があることから名付けられたニオイコブシなどがあります。学名の種小名「salicifolia」は「ヤナギの葉」を意味し、タムシバの細長い葉の形にちなんでいます。

特徴

樹高は通常3メートルから10メートルほどに成長し、樹皮はなめらかな灰褐色です。葉は互い違いにつき、長さ6〜14センチメートル程度の細長い披針形です。葉の裏側は白っぽく、特に若い葉には細かい毛が見られます。葉や枝を揉むと強い香りが放たれ、葉を噛むとわずかに甘みを感じます。類似するコブシと比較すると、タムシバは葉がより細長く、葉の裏が白いこと、冬芽（葉芽）に毛がないことなどで区別できます。冬の枝先には、白い毛に覆われた大きな花芽がつきます。

花と果実

花期は一般的に4月から5月頃で、葉が出る前に直径6〜10センチメートルの白い花が咲きます。花は強い芳香を放つ両性花です。花びらに見える花被片は通常9枚あり、外側の3枚はやや小さく、内側の6枚がより大きいです。多数の雄しべと雌しべがらせん状に並びます。コブシでは花の基部に葉がつくことがありますが、タムシバでは基本的に花の基部に葉はつきません。花には様々な昆虫が訪れ、受粉を助けます。花の主要な香り成分は1,2-ジメトキシベンゼンです。

花が終わると果実が発達し、8月から9月頃に熟します。個々の果実が集まって、握りこぶしのような形をした長さ7〜8センチメートルの集合果を形成します。熟した果実は裂開し、赤い種子が白い糸状のものにぶら下がって出てきます。種子は鳥や小型哺乳類によって運ばれ散布されます。また、種子による繁殖だけでなく、株元からの萌芽や伏条によって広がることもあります。

分布と生態

タムシバは日本固有種として、本州、四国、九州に分布し、特に日本海側で多く生育します。山地の斜面や尾根筋に多く見られ、平地や沢筋を好むコブシとは生育環境がやや異なります。ただし、分布域が重なる場所ではコブシやシデコブシと交雑することがあります。地域によっては遺伝的・形態的な違いが見られ、主に日本海側に分布する低木型と、太平洋側から西日本にかけて分布する高木型に分けられることが報告されています。長崎県では準絶滅危惧種に指定されています。特定の昆虫の食草となったり、ツキノワグマに花が食べられたりすることもあります。

人間との関わり

タムシバは海外で観賞用として利用されることもありますが、日本ではあまり一般的ではありません。モクレン類のつぼみを乾燥させたものは「辛夷（しんい）」と呼ばれ、鼻炎や頭痛などに用いられる生薬として古くから知られており、タムシバのつぼみも利用されます。タムシバの持つ強い芳香成分は、「ニオイコブシ」の名前でアロマオイルとしても流通しています。辛夷の精油成分は産地によって多様なタイプがあり、これはタムシバの地域的な遺伝的差異と関連があると考えられています。また、タムシバの花は軽く茹でておひたしや和え物にして食用にされることもあります。

分類

タムシバは、植物体の特徴や遺伝的な情報に基づき、大きく二つの型に分けられます。枝が斜めに伸びて低木状になる「低木型」は主に東北から中部地方の日本海側に分布し、幹が直立して高木になる「高木型」は中部地方の太平洋側から西日本に分布します。分類学的には、高木型が基本変種、低木型が変種ヒロハタムシバとして扱われることがあります。コブシとの雑種はシバコブシ、シデコブシとの雑種はMagnolia × proctoriaと呼ばれます。シデコブシとの交雑では、タムシバが母親となる例が多く、遺伝子の移動はシデコブシからタムシバへ一方的に起こることが示唆されています。モクレン属内の分類では、タムシバはハクモクレン節（section Yulania）に属するとされています。

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