タメルラン・チェス

タメルラン・チェスとは

タメルラン・チェス、またはティムール・チェスは、中世にイランで発展した変則チェスの一種です。現代チェスのルーツであるチャトランガを基に、皇帝ティムール（タメルラン）の治世に考案されたと伝えられています。別名、シャトランジ・カミール（完全なシャトランジ）、シャトランジ・アルカビール（至大なるシャトランジ）とも呼ばれます。現代チェスとの共通点も多い一方で、駒の種類や動き、プロモーション（成り）のルールなど、独自の要素が数多く存在します。

盤と初期配置

タメルラン・チェス盤は、10×11マスの110マスで構成されます。さらに、9列目の左端と2列目の右端に「城塞」と呼ばれる2つの追加マスがあり、合計112マスとなります。城塞は、王（シャー）のみが占拠でき、相手の王が自陣の城塞を占拠すると引き分けとなります。初期配置はいくつかのバリエーションがありますが、一般的な配置は以下の通りです。

1段目（白、左から）：ピール（象）、〈空白〉、ジャマル（駱駝）、〈空白〉、ダッバーダ（攻城兵器）、〈空白〉、ダッバーダ、〈空白〉、ジャマル、〈空白〉、ピール。
2段目（白、左から）：ルフ（戦車）、ファラス（馬）、タリア（哨兵）、ズラーファ（キリン）、フィルズ（将）、シャー（王）、ワズィール（宰相）、ズラーファ、タリア、ファラス、ルフ。
3段目（白、左から）：バイダクのバイダク（兵）、ダッバーダのバイダク、ジャマルのバイダク、ピールのバイダク、フィルズのバイダク、シャーのバイダク、ワズィールのバイダク、ズラーファのバイダク、タリアのバイダク、ファラスのバイダク、ルフのバイダク。

駒の種類と動き

タメルラン・チェスには、現代チェスにはない独自の駒が多数存在します。

シャー（王）：現代チェスのキングと同様に動きますが、ゲーム中に1度だけ、チェック、チェックメイト、ステイルメイトを避けるために、味方の駒と位置を交換できます。
フィルズ（将）：斜め方向に1マス進みます。
ワズィール（宰相）：縦横方向に1マス進みます。
ズラーファ（キリン）：斜めに1マス進んだ後、縦横方向に3マス以上進みます。
タリア（哨兵）：チェスのビショップのように斜めに移動しますが、2マス以上移動する必要があります。
ファラス（馬）：チェスのナイトと同じ動きをします。
ルフ（戦車）：チェスのルークと同じ動きをします。
ピール（象）：斜め方向に2マス移動し、間に駒があっても飛び越えることができます。
ジャマル（駱駝）：斜めに1マス進んだ後、前方に2マス進みます。間に駒があっても飛び越えることができます。
ダッバーダ（攻城兵器）：縦横方向に2マス進み、間に駒があっても飛び越えることができます。
バイダク（兵）：前方に1マス進みます。チェスと異なり、初手で2マス進むことはできず、アンパッサンもありません。全ての駒には対応するバイダクが存在します。

ルール

ゲームの開始

先手はサイコロで決定します。

目的

タメルラン・チェスの目的は、相手の王（シャー）をチェックメイトすることです。現代チェスとは異なり、相手をステイルメイトにすると勝ちとなります。

プロモーション（成り）

バイダク（兵）が盤の最終ランクに到達すると、対応する駒にプロモーション（成り）します。例えば、ズラーファのバイダクはズラーファになります。ただし、シャー（王）のバイダクとバイダクのバイダクは例外です。

シャーのバイダク：シャーザーダ（太子、王子）になります。シャーザーダはシャーと同じ動きをします。シャーとシャーザーダが両方盤上に存在する場合は、どちらか一方を取ってから、もう一方をチェックメイトまたはステイルメイトにする必要があります。
バイダクのバイダク：プロモーションのルールは複雑です。最初のプロモーションでは、最終ランクで動けなくなり、相手から取られなくなります。相手の駒の斜め前にバイダクを配置して相手が逃げられない状況、またはバイダクを置くと両取りになる状況が発生した場合、そのバイダクを動かすことができます。その際、元の位置に駒があった場合は取り除かれます。2回目のプロモーションでは、シャーのバイダクの初期位置に戻ります。3回目のプロモーションでは、シャー・マスヌーア（僭王）になります。僭王はシャーと同じ動きをしますが、城塞に関する特殊ルールがあります。

城塞

城塞は、9列目の左端と2列目の右端にある特別なマスです。王（シャー）は、いつでも相手の城塞に入ることができます。その場合、引き分けを宣言することができます。これは、タメルラン・チェスではステイルメイトが負けとなるため、不利な状況を回避するための手段となります。ただし、太子または僭王を盤上に持っている場合は、城塞に入ったシャーを太子または僭王と交換し、ゲームを続行できます。この交換は一度しか使用できません。

シャー、太子、僭王はそれぞれ位があり、城塞に入れるのは最も位が高い駒のみです。僭王は唯一、自陣の城塞に入ることができます。入ると攻撃を受けなくなるため、相手が城塞に入って引き分けを宣言するのを防ぐことができます。

その他のルール

ゲーム中に1度だけ、チェックされた王を他の駒と交換することができます。
キャスリングやアンパッサンは存在しません。
相手の王を裸にしても勝ちとはみなされません。裸の王は相手の城塞に入って引き分けにできるためです。
* スリーフォールド・レピティションや50手ルールは存在しません。

タメルラン・チェス・クラブ

アメリカのニューヨーク州には、タメルラン・チェスや他の古代チェスに打ち込む「タメルラン・チェス・クラブ」が存在します。

まとめ

タメルラン・チェスは、現代チェスとは異なる複雑なルールと駒の動きが特徴的な、奥深い戦略ゲームです。独特のプロモーションや城塞のルールが、ゲームに更なる深みを与えています。古代のチェスに興味がある方は、一度挑戦してみてはいかがでしょうか。

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