チャトランガ

チャトランガ：チェスと将棋の起源を探る古代インドのボードゲーム

チャトランガは、古代インドで生まれたボードゲームであり、チェスや将棋の起源と考えられています。サンスクリット語で「チャトゥランガ（chaturaṅga）」は「4つの部分」を意味し、これは軍隊を構成する4つの兵種（象、馬、車、歩兵）を表しているという説が有力です。

チャトランガの歴史：起源論争と新たな発見

チャトランガの起源については、長らく議論が続けられてきました。かつては、紀元前327年、アレクサンダー大王がインド遠征時にチャトランガを目撃したという説が有力でしたが、近年の研究では、これは異なるゲーム、あるいはインドの戦術とゲームを混同したものと考えられています。

一方、「戦争好きの王を戒めるために高僧が考案した」という伝説も存在します。この伝説は、チャトランガが戦争を模したゲームであることを示唆しています。

チャトランガはインドで現在も存在しますが、植民地支配の影響でプレイヤー数は減少しています。

四人制チャトランガと二人制チャトランガ

チャトランガには、四人制と二人制の形式が存在しました。1790年のウィリアム・ジョーンズの論文では四人制チャトランガが紹介され、19世紀まではこれが主流の説でした。しかし、H. J. R. Murrayの『チェスの歴史』で疑問が呈され、その後、第二次世界大戦後に再び四人制起源説が台頭しました。

1990年代以降、レナーテ・ザイエットの研究により、12世紀初めのサンスクリット文献『マーナソーッラーサ』に二人制チャトランガの記述が先行して存在することが判明しました。また、『マハーバーラタ』の記述も、実際の戦争の戦術に関するものであり、ゲームではないと考えられています。さらに、従来チャトランガの最古の証拠とされてきたバールフートのレリーフやブッダガヤのレリーフについても、再検討の結果、チャトランガとは関係ない可能性が高まっています。

これらの研究結果から、現在では、チェスや将棋につながる起源は、サイコロを用いない二人制チャトランガであると考えられています。四人制チャトランガは、11世紀以前には遡れない可能性が高いです。増川宏一も、初期の説を修正し、二人制起源説を支持しています。

チャトランガのルール：四人制と二人制

歴史的資料の不足から、チャトランガの正確なルールは不明な点が多いです。以下は、現存する情報に基づく推測です。

四人制チャトランガ

縦横8マスの盤面を使用。
4人が2組に分かれ、対戦後、勝者同士が対戦します。
サイコロを使用し、出た目によって駒を動かします（後に、サイコロを使わないルールになったと考えられています）。
駒は王、象、馬、車、歩兵の5種類。赤、緑、黄、黒の4色で区別します。
歩兵が最前列に到達すると、その列の駒に昇格できます。
王は1回だけ、馬のように動かすことができます。
駒を取ると、その駒は捨てられます。持ち駒はありません。
王を取られたプレイヤーが負けとなります。

二人制チャトランガ

ルールは四人制に準じると考えられますが、サイコロは使用しません。
駒は王、大臣、象、馬、車、歩兵の6種類です。

チャトランガの駒の動き

駒の動きは、時代や地域によって異なっていた可能性があります。以下は、いくつかの説をまとめたものです。

王: 全方向に1マスずつ
大臣: 斜めに1マスずつ
象: 斜め4方向と前に1マスずつ、または斜めに2マスずつ
馬: 八方桂（前後に2マス、横に1マス、または前後に1マス、横に2マス）
車: 前後左右に何マスでも（駒を飛び越えられない）
歩兵: 前方に1マスずつ（敵駒を取る際は斜め前方）

チャトランガと他のボードゲーム

チャトランガは、チェス、将棋、シャンチー、チャンギ、マークルック、シットゥイン、シャトランジなど、世界各地のボードゲームに影響を与えたと考えられています。これらのゲームの起源と発展を理解する上で、チャトランガの研究は非常に重要です。

参考文献

* 増川宏一『ものと人間の文化史 110 チェス』法政大学出版局、2003年

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