タルコット・パーソンズ

タルコット・パーソンズ：機能主義社会学の巨匠

タルコット・パーソンズ (1902-1979) は、20世紀を代表するアメリカ合衆国の社会学者であり、機能主義社会学の確立に多大な貢献を果たした人物です。第二次世界大戦後、ニクラス・ルーマンやロバート・キング・マートンらと共に最も影響力のある社会学者の一人として広く知られています。

初期の人生と学問的キャリア

コロラド州コロラドスプリングスに生まれたパーソンズは、アマースト大学で経済学士号を取得した後、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスやハイデルベルク大学で学びました。ハイデルベルク大学ではマックス・ウェーバーの社会学思想に深く触れ、その影響を強く受けました。その後、1927年から1973年までハーバード大学で教鞭をとり、同大学のロシア研究センター設立にも関わりました。1979年には西ドイツ・ミュンヘンで急逝しました。

社会システム理論とAGIL図式

パーソンズの主要な業績は、社会一般を包括的に説明する一般理論の構築にあります。彼は功利主義的な人間観に反論し、社会性を重視した独自の理論体系を展開しました。その中心となるのが「社会システム理論」であり、社会システムを構造と機能の両面から分析する「構造機能分析」と、社会システムを維持する4つの機能（適応、目標達成、統合、潜在的パターン維持）を示した「AGIL図式」が特に有名です。AGIL図式は、社会システムがこれらの機能をどのように満たすかを示す枠組みとして、様々な社会現象の分析に用いられました。

パーソンズは、社会システムを、文化システム、パーソナリティシステム、社会システムといった複数のサブシステムから成るものと捉えました。これらのサブシステム間の相互作用を通して、社会全体の安定と秩序が維持されると考えました。彼の理論は、社会システムの複雑性とダイナミズムを明らかにする上で重要な貢献を果たしました。ただし、後期に展開された抽象的な理論については、今日でも賛否両論があります。

家族の機能と社会化

パーソンズは家族の機能についても重要な研究を行いました。彼は家族の役割を社会化と安定化の2つの主要な機能に分けました。社会化とは、家族が個人が社会の規範や価値観を内部化し、社会の一員として適応していく過程を助ける機能です。一方、安定化とは、家族が個人の精神的な安定を支え、男女間の関係を調整する機能です。産業化の進展により家族の機能は変化しつつありますが、パーソンズの分析は家族の社会における重要性を浮き彫りにしました。

主要な著作

パーソンズは数多くの重要な著作を残しました。代表的なものとして、『社会的行為の構造』（The Structure of Social Action）、『社会体系論』（The Social System）、『社会構造とパーソナリティ』（Social Structure and Personality）、『近代社会の体系』（The System of Modern Societies）などがあります。これらの著作は、社会学のみならず、人類学、政治学、経済学など、幅広い分野に影響を与えました。

評価と影響

パーソンズの社会理論は、社会学の発展に大きな影響を与えました。彼の構造機能主義は、社会の安定性と秩序を説明する上で重要な枠組みを提供しました。しかし、彼の理論には、社会の変化や矛盾を十分に説明できない、過度に秩序を重視しているといった批判もあります。近年では、パーソンズの理論を再評価する動きもあり、彼の貢献は改めて注目されています。彼の著作は、今日でも多くの社会学者や研究者によって研究され、議論されています。

参考文献

新明正道 (1982). 『タルコット・パーソンズ』恒星社厚生閣
高城和義 (1986). 『パーソンズの理論体系』日本評論社
* その他、本文中に記載されたパーソンズの著作および関連文献

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