タルハナ

タルハナ（Tarhana）は、トルコを代表する伝統的な食品の一つで、ヨーグルトと小麦を主原料として作られます。これらの材料を混ぜ合わせ、時間をかけて発酵させた後、丁寧に乾燥させて顆粒状または粉末状にした保存食です。主にトルコのアナトリア地方の農村部で古くから親しまれており、特に夏の収穫期に豊富にとれる乳製品を無駄なく利用するための知恵から生まれました。

タルハナの最も一般的な食べ方は、水やブイヨンに溶かして煮込み、スープとして楽しむことです。このスープは「タルハナ・チョルバス（Tarhana Çorbası）」と呼ばれ、トルコの多くの家庭で日常的に作られる「おふくろの味」として知られています。料理研究家の荻野恭子氏も、タルハナ・チョルバスを「ほんのりとした酸味があり、独特な乳の風味が特徴」と評しており、そのユニークな味わいが多くの人を魅了しています。

タルハナの製法や材料には、地域によって様々なバリエーションが存在します。中央アナトリアや東部アナトリアでは、比較的シンプルに小麦粉とヨーグルトを中心にしたものが主流です。一方、ヨーロッパ側のトラキア地方では、小麦粉とヨーグルトに加えてトマトや玉ねぎなどの野菜を練り込むのが一般的です。さらに、エーゲ海地方のキュタヒヤ県では、酸味を加えるためにセイヨウサンシュユの果汁を用いるなど、その土地ならではの工夫が見られます。

具体的な製法の一例として、東トラキアのエディルネの家庭で作られるタルハナのレシピが挙げられます。ここでは、赤ピーマン、トマト、玉ねぎといった野菜を細かく刻み、鍋でしっかりと煮込んで水分を飛ばします。そこに、水切りしたヨーグルト、セモリナ、塩、トマトペースト、酵母、そして小麦粉を加え、全体が均一になるまでよく混ぜて生地状にこね上げます。この生地を布にくるんで、数日間寝かせて発酵を促します。発酵期間中は、毎日15分ほど生地をこねる作業を繰り返すことで、発酵を均一に進めます。発酵が始まり8日から15日ほど経過し、生地が十分熟成したら、細かくちぎって天日などで乾燥させます。完全に乾燥したら、手で揉んだり、ふるいにかけたりして粉状に砕き、密閉容器に入れて保存します。

このように、タルハナ作りは時間と手間がかかる作業ですが、その結果として得られる保存性の高さと、栄養価のバランスの良さから、特に冷蔵技術が普及する以前の時代には、冬場の大切な食料源として非常に重要な役割を果たしました。乾燥させることで長期保存が可能となり、いつでも手軽に滋養のあるスープを家庭で楽しむことができるのです。現代においても、その独特の風味と手軽さから、スーパーマーケットなどでも市販されており、多くのトルコ人にとって身近な食品であり続けています。

タルハナは、単なる食品であるだけでなく、地域の食文化や保存食作りの知恵を伝える文化的な側面も持っています。地域ごとの材料や製法の違いは、その土地の風土や農産物の特色を反映しており、トルコの多様な食文化の一端を示しています。素朴ながらも滋味深く、体を温めるタルハナ・チョルバスは、トルコの人々にとって心安らぐ故郷の味と言えるでしょう。

もう一度検索