タンク車

タンク車：液体・気体・粉体のバルク輸送を担う鉄道車両

タンク車とは、その名の通りタンク型の荷台を備えた鉄道貨車で、石油製品（ガソリン、灯油など）、化学物質、セメントなどの液体、気体、粉体物質を包装や梱包することなく、直接タンク内に注入して運搬する車両です。 日本国有[[鉄道]]時代には車種記号に「タ」が用いられていました。

タンク車の構造と特徴

タンク車は、鋼材製の台枠上に円筒形のタンクを搭載した構造が一般的です。液体、気体、粉体といった様々な物質に対応するため、積荷の性質に応じてタンクの材質や構造、安全装置などが異なります。 特に近年製造される車両では、台枠の中間部を省略したフレームレス構造が主流となっています。この構造は、タンク本体の強度を高めることで中間部を不要とし、大容量化と軽量化を実現しています。 また、制動時の液体の揺れを抑えるため、タンク内部には防波板と呼ばれる仕切りが設置されています。運用にあたっては、タンクを満タン、もしくは空荷で走行させることが一般的です。

積荷の種類とタンク車の構造

タンク車の構造は、積荷の物理的・化学的性質（比重、腐食性など）によって大きく異なります。そのため、各車両には特定の品目のみを積載する「専用種別」が定められています。例えば、ガソリン専用車、液化塩素専用車などがあります。 石油類も一つの専用種別ですが、軽油・灯油と重油では沸点の違いから、荷卸装置や安全装置などに差異があります。洗浄の後、一時的に他の積荷の輸送に転用される場合もあります（臨時専用種別）。

積荷の性質に応じた構造の例を挙げると、以下のようになります。

一般液体: 一般的な構造で、上部マンホールから注入し、下部から排出します。漏洩リスクが比較的低い液体に用いられます。（例：ガソリン、石油類、アルコール）
腐食性物質: 強酸・強アルカリなど。タンクをステンレスやアルミニウムなどの耐腐食性材料で製作したり、空気圧による上出し方式を採用するなど、漏洩事故防止対策が徹底されています。（例：濃硫酸、濃硝酸、カセイソーダ液）
液化ガス: 高圧低温の液化ガスを輸送するため、タンクは高圧に耐える圧力容器として設計され、密閉度が高くなっています。外部は遮熱板で覆われ、断熱材が充填されています。（例：液化塩素、LPガス、液化アンモニア）
粉体: 流動性に劣るため、タンク下部から空気を噴出させて排出したり、上部から真空吸引するなどの工夫が凝らされています。（例：セメント、アルミナ）
食品: 積荷の変質を防ぐため、ステンレスなどの耐腐食性材料を使用したり、遮熱板を設けるなど、特別な対策が施されています。（例：小麦粉、醤油、酒類）
定温輸送品: 融点の高い物質を液体状で輸送するために、タンクを二重構造とし、断熱材を充填しています。（例：液体硫黄、アスファルト、カプロラクタム）
* 特殊品目: 急激な反応を防ぐため、水を張って空気を遮断したり、粉塵爆発防止のため温水を注入するなど、特別な輸送方法が用いられます。（例：二硫化炭素、塩素酸ソーダ、金属ナトリウム）

タンク車の歴史と変遷

日本では、1893年にサミュエル・サミュエル商会が石油製品輸送用に使用を開始したのが始まりとされています。現在の円筒形タンクを持つ車両は1900年から使用されています。当初は「油槽車」と呼ばれ、「タンク車」という名称になったのは1928年の国鉄貨車称号改正によるものです。

多くのタンク車は、荷主が所有する私有貨車として運用されてきました。特に石油類輸送では、かつては石油元売各社が多数保有し、社章が描かれていましたが、1980年代以降は専門輸送会社に移管されるケースが増えています。近年は、ISO規格コンテナを積載可能なタンクコンテナへの移行が進んでいます。これは、輸送時間短縮や積み替え容易さといった利点に加え、老朽化したタンク車の更新需要にも起因しています。輸送規模の縮小や輸送手段の転換などにより、タンク車の総数は減少傾向にあります。しかし、長大トンネルのある路線ではタンクローリーの運行が規制されるため、依然としてタンク車による輸送が重要となっています。

タンク車に関連する事故例

過去には、危険物を積載したタンク車の事故が数多く発生しています。濃硫酸、濃硝酸、液化アンモニア、LPガスなどの漏洩や爆発事故により、環境汚染や人的被害が発生した例があります。これらの事故は、安全対策の重要性を改めて示すものです。 これらの事故を教訓に、タンク車の構造、運用方法、安全管理の改善が続けられています。

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