タンジェントポリ

タンジェントポリ：イタリアを揺るがせた贈収賄事件と共和政の転換

「タンジェントポリ（Tangentopoli）」とは、1992年からイタリアで発生した大規模な汚職捜査とその結果としての政治変革を指す言葉です。イタリア語で「贈収賄のはびこる都市」を意味するこの事件は、イタリア社会に大きな衝撃を与え、同国の政治システムに根本的な変革をもたらしました。冷戦終結後の国際情勢変化も相まって、この事件はイタリア第一共和政から第二共和政への移行期として捉えられることも少なくありません。

汚職の常態化：長く続いた闇

第二次世界大戦後、イタリアの政界はキリスト教民主主義(DC)、イタリア社会党(PSI)、イタリア民主社会党(PSDI)、イタリア共和党(PRI)といった中道・左派政党が中心となって、長期にわたって政権を維持してきました。しかし、その裏では汚職が蔓延し、国民の政治不信は深刻さを増していました。比例代表制による選挙制度も、主要政党の議席を安定させることに繋がり、政権交代は困難な状況でした。

この膠着状態を打破するきっかけとなったのが、1992年にミラノ検察庁が開始した汚職捜査です。市立養護老人施設の汚職から端を発した捜査は、アントニオ・ディ・ピエトロ検事率いる「マーニ・プリーテ（清廉な手）」と称される捜査チームによって、国会議員らへと拡大していきました。

この捜査はイタリア全土に波及し、1992年から1994年にかけて、およそ3,000人、その中には約400人の国会議員が含まれるという、かつてない規模の摘発が行われました。

選挙制度改革と政権交代：国民の怒り

タンジェントポリによる汚職の暴露は、国民の既存政党への信頼を完全に失墜させました。この事態を受けて、非政治家のカルロ・アツェリオ・チャンピが首相に就任。チャンピ内閣は、比例代表制による政治の硬直化を打破するため、小選挙区制導入を柱とする選挙制度改革に着手しました。

1994年の総選挙では、この改革によって既成政党は軒並み議席を減らし、長年政権を担ってきたDCやPSIは、ジュリオ・アンドレオッティのマフィアとの関与疑惑や、ベッティーノ・クラクシのチュニジア亡命などの影響で求心力を失い、分裂・解体へと追い込まれました。

重要な出来事：タンジェントポリの軌跡

タンジェントポリは、多くの事件や出来事を経て展開しました。主な出来事を時系列で見ていきましょう。

1992年2月17日: マリオ・キエーザの逮捕。タンジェントポリ捜査「マーニ・プリーテ」開始。
1992年4月5日: イタリア総選挙。北部同盟の躍進。
1992年5月23日: 法務省刑事部長ジョヴァンニ・ファルコーネ暗殺。
1992年7月19日: 検事パオロ・ボルセリーノ暗殺。(ファルコーネとボルセリーノの暗殺には、マフィアボス、サルヴァトーレ・リイナやジュリオ・アンドレオッティの関与が疑われた)
1993年1月15日: マフィアボス、サルヴァトーレ・リイナ逮捕。
1993年2月11日: ベッティーノ・クラクシ、イタリア社会党書記長辞任。
1993年3月27日: パレルモ地方検察庁、ジュリオ・アンドレオッティに対する捜査許可申請。
1993年4月22日: ジュリアーノ・アマート内閣総辞職。
1993年4月26日: カルロ・アツェリオ・チャンピ内閣発足（初の非政治家内閣）。
1993年5月12日: 産業復興公社(IRI)総裁、フランコ・ノービリ逮捕。

これらの出来事が、イタリアの政治システムを根本から変え、現代イタリアの政治構造を形作る上で重要な転換期となったことは間違いありません。タンジェントポリは、単なる汚職事件ではなく、イタリア現代史における重要な一断面として捉えられています。

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