ジュリオ・アンドレオッティ

ジュリオ・アンドレオッティ（Giulio Andreotti）は、イタリアの政治家であり、キリスト教民主主義の重鎮として、冷戦時代からイタリア政界に大きな影響力を持っていました。1919年1月14日にローマで生まれ、2013年5月6日に94歳で亡くなるまで、その政治キャリアは多くの功績と疑惑に彩られています。

生い立ちと政界入り

ローマ大学で法律を学んだ後、第二次世界大戦後にキリスト教民主主義に入党。1946年には下院議員に初当選し、政界でのキャリアをスタートさせました。翌年には早くもアルチーデ・デ・ガスペリ内閣で首相府副長官に任命され、その才能を発揮し始めました。

長きにわたる政界での活躍

1954年にはアミントレ・ファンファーニ内閣の内相として初入閣して以降、外相、国防相など様々な要職を歴任。入閣回数は19回に及びます。首相としても、1972年〜1973年、1976年〜1979年、そして1988年〜1992年の計3回、7つの内閣を率いました。1991年には、その国家への貢献が認められ、終身上院議員の地位を得ています。

アンドレオッティは、一貫して親西側、反共の立場を貫き、特にアメリカとの関係を重視しました。しかし、その一方で、マフィアとの親密な関係が「公然の事実」として認識され、多くの疑惑が浮上します。

マフィアとの関係

アンドレオッティは、首相在任中も含め、マフィアとの親密な関係を指摘されていました。シチリアマフィアのボス、サルヴァトーレ・リイナと抱擁しキスをしている姿が目撃されるなど、その関係は否定できないものでした。彼はマフィアから「ジュリオおじさん」と呼ばれ、親しまれていたとされます。

ロッジP2との関係

アンドレオッティは、政財界の有力者が参加した秘密結社「ロッジP2」との関係も深く指摘されています。ただし、アンドレオッティ自身は「ロッジP2」の会員ではありませんでした。ロッジP2の代表でありマフィアであったリーチオ・ジェッリ、アンブロシアーノ銀行の頭取ロベルト・カルヴィ、そしてミケーレ・シンドーナとの関係が深かったと言われています。これらの関係から、ボローニャ駅爆破テロ事件やグラディオ作戦への関与、アンブロシアーノ銀行の破綻、カルヴィ暗殺事件など、数々の疑惑が浮上しました。

首相退任と裁判

冷戦終結後、アンドレオッティは、マフィアとの関係、汚職、テロ事件への関与などの疑惑により、1992年に首相の座を追われました。また、彼の長年の権力の基盤であったキリスト教民主主義も1994年に解党へと追い込まれました。

その後、アンドレオッティは複数のマフィア関連の事件で起訴されました。ファルコーネ判事暗殺事件では、マフィアとの癒着が指摘され、リイナとの密会も明らかになりましたが、「時効成立」という不可解な理由で無罪となりました。モーロ元首相誘拐事件では、マフィアに指示してペコレッリを殺害させたとして、一時は懲役24年の有罪判決を受けたものの、後に証拠不十分として無罪となりました。これらの裁判では、アンドレオッティの政治的影響力が巧みに利用されたとの指摘もあります。

晩年と評価

数々の裁判で無罪を勝ち取ったアンドレオッティは、その後も終身上院議員として活動を続けました。その政治的影響力は衰えたものの、晩年までメディアへの露出を続け、2013年に94歳で亡くなりました。彼の死後も、その政治的遺産は議論の的となっています。長年の権力保持から、「イタリア政界の硬直化の象徴」と見なされることもありました。

アンドレオッティは、「魔王ジュリオ」とも呼ばれ、その権力は政界だけでなく、財界、法曹界、カトリック教会、労働組合、マフィア、テロリストにまで及んでいました。映画『ゴッドファーザーPARTIII』の「ドン・ルケージ」のモデルとしても知られ、その生涯は、イタリア現代史における暗部を象徴するものと言えるでしょう。

エピソード

アンドレオッティは、毎日のミサを欠かさず、教会への寄付を惜しまなかったと言われています。また、4人の歴代ローマ教皇と親密な関係にありました。モーロ元首相は、「アンドレオッティは悪事を行うために生まれてきた男」と批判しました。彼の生涯を題材にした映画『イル・ディーヴォ 魔王と呼ばれた男』は、2008年のカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞しました。

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