ターハー・フセイン

ターハー・フセイン：エジプト・ルネサンスの巨匠

ターハー・フセイン (1889-1973) は、20世紀前半のエジプトにおける文壇と思想界をリードした重要な人物です。エジプト・ルネサンス運動の中心的な役割を果たし、アラブ世界の近代化に多大な貢献をしました。盲目のハンディキャップを克服し、教育者、作家、評論家、政治家として活躍した彼の生涯と業績は、エジプトのみならず、アラブ世界全体に大きな影響を与えています。

幼少期と教育

上エジプトの農村で生まれたフセインは、3歳の時に医療ミスにより視力を失いました。しかし、彼は困難を乗り越え、クルアーンを学ぶクッターブと呼ばれる学校に通い、その後、アル＝アズハル大学に進学しました。伝統的な宗教教育に物足りなさを感じた彼は、大学を卒業することなく退学します。

1908年、カイロ大学が開学すると、フセインは入学を熱望し、貧困と視覚障害というハンディキャップを克服して入学を果たしました。彼は並々ならぬ努力により、1914年には博士号を取得する最初の学生となりました。彼の博士論文は、イスラム教の教義を批判したことで知られる盲目の詩人、アブー・アル・アラー・アル・マアッリーに関するものでした。

フランス留学と帰国

博士号取得後、フセインは国費留学生としてフランスに留学し、モンペリエ大学とソルボンヌ大学で修士号と博士号を取得しました。ソルボンヌ大学での博士論文は、歴史家イブン・ハルドゥーンに関するものでした。フランス留学中、彼はスザンヌ・ブレソーと出会い結婚。スザンヌは彼の生涯における重要なパートナーとなり、著作のフランス語訳なども手伝いました。

1919年、フセインは妻と共にエジプトに帰国し、カイロ大学の歴史学教授に就任。アラビア文学教授も務め、高等教育の近代化に尽力しました。彼の教育改革への取り組みは、後のエジプトの教育政策に大きな影響を与えました。

イスラム教の伝統への挑戦

フセインの最も有名な著作の一つに『先イスラム期の詩について』があります。この著作で彼は、アラビア語の伝統的な詩の信憑性を疑問視し、多くの部分が捏造された可能性を示唆しました。さらに、クルアーンについても客観的な歴史資料として用いるべきではないと主張しました。この著作は、保守派から激しい反発を招き、イスラム教に対する冒涜として訴訟を起こされました。裁判では無罪判決を得ましたが、カイロ大学を解雇され、著作は一時禁書となりました。

教育大臣としての活動

1950年、フセインはエジプト政府の教育大臣に任命されました。「教育は空気や水のように不可欠」という信念に基づき、彼は教育の無償化を推進し、国民の識字率向上に大きく貢献しました。小学校の改組、大学設立、従来の高校の大学への改組など、エジプトの教育システムの近代化に尽力しました。

エジプト・ナショナリズムとファラオニズム

フセインはエジプト・ルネサンス運動の代表的な知識人であり、エジプト・ナショナリズムを熱烈に主張しました。彼は「ファラオニズム」という思想を提唱し、エジプト文明がアラブ文明によって抑圧された状態にあると主張。エジプトは古代文明のルーツに立ち返ることによって発展できると訴えました。

死後

1973年に亡くなったフセインは、死後、国連人権賞を受賞しました。カイロにはターハー・フセイン博物館、アレクサンドリア図書館には視覚障害者向けのターハー・フセイン図書館があります。

著作

フセインは、アラビア文学やイスラム文化に関する研究論文、社会批判的な小説、政治論説など、多岐にわたる著作を残しました。彼の自伝『アル＝アイヤーム（日々）』は、広く読まれ、高い評価を得ています。 その他、ギリシャ・ローマ古典文学の翻訳などにも携わっています。彼の著作は全16巻の全集として刊行されています。

まとめ

ターハー・フセインは、盲目のハンディキャップを克服し、エジプトの近代化に多大な貢献をした、20世紀を代表する偉大な知識人です。彼の生涯と業績は、困難に立ち向かう人間の意志と、社会改革への情熱を示す、輝かしい歴史となっています。

もう一度検索