ターロウ・オブライエン

ロバート・E・ハワードが創造したフィクションの登場人物、ターロウ・オブライエンは、「黒いターロウ」あるいはブラック・ターロウの異名で知られる、11世紀アイルランドのゲール人戦士です。彼は斧の扱いに長けた卓越した戦士であり、引き締まった体格の色黒の若者として描写されます。

西暦1014年に起こったクロンターフの戦いに参加した後、彼は氏族から追放されるという過酷な運命を辿り、祖国を離れて各地をさまようことになります。その流浪の旅の中で、ターロウは主にデーン人のヴァイキングを敵として、激しい戦闘を幾度となく繰り広げます。

彼の物語は、ハワードの短編小説群で展開されます。作品内の時系列は、『灰色の神が通る』、『暗黒の男』、そして『バル＝サゴスの神々』の順とされています。

登場作品と物語の軌跡

『灰色の神が通る』（原題：The Twilight of the Grey Gods）

この作品は、クロンターフの戦いを歴史的な背景としつつ、幻想的な要素を織り交ぜた物語です。日本では論創社から刊行された翻訳集に収録されています。ターロウはこの戦いの主要な参加者ではありますが、物語の焦点は逃亡奴隷のコンに当てられており、ターロウは非主役として描かれます。ゲール軍とデーン軍によるかつてない規模の戦いが描かれ、ターロウは勇猛な戦士としてダルカシアン家の部隊を率い、デーン側のメイルモアを討ち取るなどの武勲を立てます。戦いの後、ターロウは敗れたヴァイキングの神オーディンがアイルランドを去ることに触れ、時代の移り変わりをしみじみと語ります。

『暗黒の男』（原題：The Dark Man）

『ウィアード・テイルズ』誌に掲載された、剣と魔法、歴史の要素を融合させた冒険譚です。この作品は、ハワードの別シリーズであるブラン・マク・モーンの物語とも関連しており、ブランの最期についても言及があります。

氏族を追放されて放浪していたターロウは、幼馴染であるダルカシアン族長の娘モイラ姫が、海賊王トールフェル率いるヴァイキングに拉致されたことを知ります。弱体化した一族にはモイラを奪還する力がないことを悟ったターロウは、単身、小舟でヘブリデス諸島へと向かうという、無謀ともいえる旅に出ます。

航海の途中で立ち寄った島で、ターロウはピクト人とデーン人の海賊たちが相討ちとなり全滅している異常な光景に遭遇します。そこには、5フィートほどの高さの不気味な彫像「暗黒の男」が転がっていました。ターロウは、この像を命懸けで守り抜こうとしたピクト人たちの意図を察し、その像を拾います。像には魂が宿るとされ、真に認められた者だけがその重さを感じずに持ち上げられるのでしたが、ターロウは容易に持ち上げることができました。像の加護か、その後の航海は荒波を乗り越えて順調に進みます。

トールフェルの砦に忍び込んだターロウは、モイラがトールフェルとの結婚を拒み、自害するという悲劇を目撃します。激怒したターロウが多勢のヴァイキングに単身挑みかかったその時、盗まれた像を取り戻しに来たピクト人の戦士たちが乱入し、ターロウに加勢します。彼らは「暗黒の男」がピクトの神であり、像に宿るブラン王の霊魂がターロウを認めたために助けたのだと明かします。ターロウはトールフェルを討ち取りモイラの最期を看取った後、ピクト人たちと共にヴァイキングを殲滅します。一人生き残ったサクソン人の傭兵アセルステインは、ジェローム司祭の手当てを受けて回復します。ピクト人たちが像を回収して去った後、ターロウは再び当てもない旅に出ます。

『バル＝サゴスの神々』（原題：The Gods of Bal Sagoth）

長らく日本語訳が存在しませんでしたが、近年翻訳され日本でも読めるようになりました。

ヴァイキングに囚われたターロウは、数年前に命を見逃した縁からサクソン人のアセルステインに助けられますが、激しい嵐に見舞われ船が難破します。なんとか生き延びた二人が流れ着いたのは、褐色の肌の民が暮らす、かつての古代王国バル＝サゴスが存在した孤島でした。そこで彼らは、怪鳥に襲われていた白い肌の女性ブリュンヒルドを救います。ブリュンヒルドは、自身が白い肌を利用して海の女神を名乗り女王となっていたが、大神官ゴタンの策略で追放されたと語ります。彼女は、海から来た鉄の男たちが王国を滅ぼすという予言があり、鉄の鎧に身を固めたターロウとアセルステインを見れば民衆が畏怖し、自身の復位に協力するだろうと二人に協力を求めます。ヴァイキングへの憎しみを持つターロウはアセルステインと反目しますが、彼の命の恩人であるアセルステインとの友情を重んじ、ブリュンヒルドへの加勢を決意します。

グロス＝ゴルカという怪鳥を倒した二人は、王都に乗り込みます。ゴタンが新たな君主として立てたスカーとアセルステインが一騎打ちで戦い、アセルステインが勝利します。王権の象徴である翡翠の彫刻を取り戻したブリュンヒルドは女王に復位しますが、その夜、ゴタンが送り出した怪物が彼女を襲います。ターロウとアセルステインは怪物を退け、秘密のトンネルを追跡します。トンネルの先には、暗黒神ゴル＝ゴロスの巨大な神像が祀られた祭儀場がありました。そこでゴタンは自らが創造した怪物に殺され、その怪物もアセルステインに倒されます。しかし、突然倒れこんできたゴル＝ゴロスの像がブリュンヒルドを圧死させてしまいます。

激しい戦いを経て、二人が血路を開いて脱出すると、近隣の島から赤い肌の蛮族が侵攻しており、都は炎上していました。燃え盛る都を後にして浜辺で船を奪った二人は、沖合で偶然通りかかったスペインの軍艦に救助されます。混乱の中、ターロウは意識せずに王権の象徴である翡翠の彫刻を持ち帰っていました。アセルステインはターロウに「あんたがバル＝サゴスの王様だ」と語りかけますが、ターロウは苦い笑みを浮かべ、「死せる者たちの王国、幽霊と灰となった帝国のことだ」と答えるのでした。

その他の作品

ターロウは未完の草稿「The Shadow of the Hun」や、リメイク元の「Spears of Clontarf」にも登場しますが、これらはハワードの没後に公開されたものです。

キャラクターの魅力

氏族を追放された孤独な境遇にありながら、強い意志と卓越した戦闘能力を持つターロウは、ハワードが生んだ数多の英雄たちの中でも特に過酷な運命を背負った人物の一人と言えます。彼はヴァイキングを激しく憎む一方で、前作の敵であるアセルステインとの間に固い友情を築くなど、人間味も持ち合わせています。また、「暗黒の男」や暗黒神ゴル＝ゴロスといった古代の神秘や超常的な存在、さらにピクト人の神ブラン・マク・モーンの霊魂といったファンタジー要素との関わりも、彼の物語を独特なものにしています。行く先々で争いと破壊に巻き込まれながらも生き延びる、その孤独な旅路は読者に強い印象を残します。

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