ダイアモンドの犬

デヴィッド・ボウイが1974年5月31日にRCAレコードから発表した通算7作目のスタジオ・アルバムが『ダイアモンドの犬』（原題：Diamond Dogs）です。

グラムロックの象徴的存在として、前作『ジギー・スターダスト』や『アラジン・セイン』で架空のキャラクターを演じるコンセプト・アルバムを連続して成功させたボウイは、パブリックイメージからの脱却を図るため、一度は「引退」を表明します。次なる音楽的探求を進める中で、当時のボウイはスタッフや長年のバックバンドメンバーとの間に生じた摩擦に苦悩し、心身ともに疲弊していました。食事もままならず、薬物に頼る生活の中で、彼は次第に精神的に追い詰められていきます。

こうした状況下で、イギリスの作家ジョージ・オーウェルの小説『1984年』に深い感銘を受けたボウイは、この dystopian な世界観を基にしたミュージカル作品の構想を練ります。しかし、著作権を管理するオーウェルの未亡人から許可を得られなかったため、この計画は断念せざるを得なくなりました。そこでボウイは、作品のコンセプトを、『1984年』から着想を得た退廃的な近未来を舞台に、自身が半人半獣のような異形の姿となってその世界を予言するという、よりパーソナルなものへと変更します。

同時期に、ある雑誌記者の紹介で、アメリカのビート文学作家ウィリアム・バロウズと出会ったことも、本作の制作に大きな影響を与えました。バロウズが得意とした、既存のテキストを切り貼りして新たな文章を生成する「カットアップ」と呼ばれる手法に触れたボウイは、これを自身の作詞に取り入れます。ジョージ・オーウェルが描く管理社会的な未来像と、ウィリアム・バロウズの言葉遊び的な手法。この二人の作家からの強い刺激が融合し、『ダイアモンドの犬』は独自のコンセプト・アルバムとして完成しました。

しかしながら、前作まで共に成功を収めてきたギタリストのミック・ロンソンをはじめとする旧友とも呼べるバンドメンバーの多くが本作には参加していません。グラムロック時代の華やかなイメージとは異なる、よりダークで実験的なサウンドへと変化したことで、リリース当初、多くの音楽評論家からは賛否両論、時には批判的な評価を受けることとなりました。

アルバム発表後、ボウイは同タイトルを冠した大規模なツアーを敢行しますが、ツアーの途中で彼は突如として音楽の方向性を大きく転換させます。それまでのロックサウンドから一転、ソウルミュージックを取り入れたファンキーなアプローチへとシフトし、ステージングも変更しました。このツアーでの経験が、次作となる『ヤング・アメリカンズ』におけるソウル・ファンク路線へと繋がっていくことになります。『ダイアモンドの犬』は、ボウイのキャリアにおけるグラムロック期からソウル期への、重要な過渡期を示す作品と言えるでしょう。

なお、本作に収録されている楽曲「愛しき反抗 (Rebel Rebel)」は、イギリスの音楽誌NMEが選出した「デヴィッド・ボウイの究極の名曲」において、上位5位にランクインするなど、アルバムを代表する一曲として現在も高い評価を受けています。

『ダイアモンドの犬』は、オリジナルの1974年リリース後、1990年にはEMI（米国ではRYKO）よりCD化され、未発表テイクがボーナストラックとして2曲追加収録されました。さらに2004年には、2枚組仕様でボーナストラックが8曲追加されるなど、複数回にわたり再発売されています。

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