ダイナミックレンジ

ダイナミックレンジ：信号の強度範囲と機器性能

ダイナミックレンジは、機器や媒体が処理できる信号の強度範囲の広さを表す指標です。最小値と最大値の比率で示され、その範囲の広さを数値で表現することで、機器の性能や音質を客観的に評価する上で重要な役割を果たします。一般的に、デシベル（dB）という単位を用いて表されます。

ダイナミックレンジを制限する要因

ダイナミックレンジは、いくつかの要因によって制限を受けます。

下限（最小値）： 信号の最小値は、ノイズレベルによって制限されます。ノイズレベル以下の微弱な信号は、ノイズに埋もれてしまい、正確に識別することが困難になります。そのため、機器のノイズレベルが低いほど、ダイナミックレンジの最小値は小さくなり、より広いダイナミックレンジが実現できます。
上限（最大値）： 信号の最大値は、機器や媒体の許容量によって制限されます。許容量を超える強い信号を入力すると、歪みが発生し、信号が正しく処理されなくなります。そのため、機器の許容量が大きいほど、ダイナミックレンジの最大値は大きくなり、より広いダイナミックレンジが実現できます。

これらの下限と上限の存在が、ダイナミックレンジという概念を生み出し、特に電子機器の性能比較において重要な指標となっています。

さまざまな媒体におけるダイナミックレンジ

以下では、いくつかの媒体におけるダイナミックレンジの例を示します。これらの値は、媒体が持つ潜在的なダイナミックレンジの最大値であり、実際に記録・再生される音声信号のダイナミックレンジが常にこの値に一致するとは限りません。

コンパクトカセットテープ: ノイズリダクション非使用時では、テープの種類によって異なりますが、45～60dB程度です。高性能なメタルテープでは60dBを超えるものもありました。カセットテープ全盛期には、周波数特性を明記した製品も登場し、一部の高級テープでは63～65dBのダイナミックレンジを実現していました。
FM放送: デジタルラジオを除く日本のFM放送のダイナミックレンジは約60dBです。受信状態や送信機のリミッター回路などがダイナミックレンジに影響を与えます。
レコード: レコードのダイナニックレンジは約65dBです。これは、レコード盤の溝の物理的な振幅比率によって決まります。最小振幅は針が検知できる限界、最大振幅は隣の溝にはみ出さない限界によって制限されます。
オープンリールテープ: 磁性体やトラック幅によって異なりますが、約70dBのダイナミックレンジを持ちます。
コンパクトディスク (CD): Super Audio CDを除く一般的な音楽用CDのダイナミックレンジは96dBです。デジタル媒体であるため、規格から計算によって導き出されます。
人間の聴覚: 人間の聴覚のダイナミックレンジはおよそ120dBです。これは、知覚できる最小の音圧と、苦痛を感じる最大音圧の比率を表しています。個人差も存在します。

ダイナミックレンジに関する技術

ダイナミックレンジを効果的に扱うための技術も数多く存在します。

コンパンディング: 信号のダイナミックレンジを圧縮・伸張することで、狭いダイナミックレンジの機器でも信号を扱う技術です。
dbx、adres: 特定の方式でダイナミックレンジを制御する技術です。
ビット深度: デジタル信号処理において、量子化ビット数によってダイナミックレンジが決まります。ビット深度が高いほど、ダイナミックレンジは広くなります。
ハイダイナミックレンジ (HDR): 通常よりも広いダイナミックレンジ、もしくはそれを扱う技術です。

ダイナミックレンジは、音質や映像品質を評価する上で重要な要素であり、機器や媒体の性能を比較する際に役立つ指標です。

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