ダガー

ダガー：歴史と用途、そして現代の規制

ダガーは、全長10～30cm程度の両刃の短剣です。フランス語では「ダグ」、ドイツ語では「ドルヒ」、ポルトガル語では「アダガ」と呼ばれます。名称の由来は、古代ローマ帝国の属州であったダキア地方（現在のルーマニア）に遡るとされています。

ダガーの特徴と種類

ダガーは、刺突と投擲に適した武器です。小型であるため、人体を的確に狙わないと致命傷を与えられないという弱点がありますが、そのコンパクトさは近接戦闘において大きな利点となります。特に、中世ヨーロッパの重装騎兵のような、プレートアーマーで防御された相手に対しては、ツーハンデッドソードやパイクよりも有効な武器でした。

重装騎兵へのとどめを刺すために進化したダガーは「スティレット」と呼ばれ、瀕死の兵士に慈悲の死を与えるために用いられたものは「ミセリコルデ（Misericordia）」と呼ばれていました。

左手用のダガーの中には、相手の剣を受け止めやすいように三本刃の刃や、鍔が特殊な形状になっているものもあります。ナイフとの違いは、ダガーが専ら対人武器として作られるのに対し、ナイフは一般的に多目的の切断工具である点です。現代では、日常使用を目的としたナイフの多くは片刃ですが、ダガー型のナイフは片側に別の刃付けをすることで、繊細な作業と粗作業の両方に使えるという利点があります。ダイバーズナイフにもダガー型のものが見られます。

両刃構造は、片刃のものと比較して狭い箇所に鎬を付ける必要があり、切れ味を確保することが難しいという欠点もあります。このため、切れ味を保つにはベタ研ぎや、幅広の大型刀身にする必要があり、消耗が早くなったり、汎用性が低下する傾向があります。しかし、大型であるという特性を活かし、マチェテとしても使えるスマチェットなどの特殊なナイフも開発されています。

左右対称の形状は、観賞用やコレクション用のナイフとしても人気があります。これらのナイフは装飾性を重視していますが、基本的な機能を備えている場合もあります。

歴史

諸刃の刃物は旧石器時代から存在し、狩猟などに用いられていました。しかし、ダガーと呼ばれる刃物の登場は、青銅器や鉄器の発見を待つこととなります。

中世からルネサンス期のヨーロッパでは、護身、装飾、食事用具としてダガーを携帯することが流行しました。近世ヨーロッパの剣術では、片手にレイピア等の軽量剣、もう片手にダガーを持ち、ダガーで相手の剣を受け止めたり払いながら攻撃するという戦法も存在しました。このような使い方を念頭に作られたダガーは、「マンゴーシュ」や「パリーイング・ダガー」と呼ばれていました。

近代になると、補助的な武器として使用されることが多くなり、銃兵などが所持していたダガーは、後の銃剣へと発展しました。第一次世界大戦の塹壕戦や第二次世界大戦では、フェアバーン・サイクス戦闘ナイフなどが使用されました。現代では、軍事的な用途は限定的になり、美術・観賞用やダイバーズナイフの一部として見られるようになりました。

日本におけるダガー

日本では、日本刀以前に青銅剣などに両刃のものが存在しました。しかし、鉄器と鍛造技術の発達により、日本刀が主流になると、両刃の短剣は廃れていきました。そのため、日本ではダガーといえば、西欧様式の刀剣ないしナイフを指します。

かつてサンカが「ウメガイ」と呼ばれる両刃の短刀を使用していたとされますが、その存在自体が疑問視されています。

法規制

ダガーは美術的な価値も認められていますが、その殺傷性から規制の対象となっています。2008年の秋葉原通り魔事件を契機に、刃渡り5.5cm以上の剣の所持が原則禁止されました。この規制により、多くのダガーが回収・廃棄されました。しかし、食品加工用のナイフなど、規制対象となる可能性のある刃物も存在するため、混乱も生じています。ダイバーズナイフも、形状によっては規制の対象となります。現在も、海外輸出用であれば許可を得て製造・製作が可能です。

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