ダチア (自動車)

ダチア：低価格戦略で世界へ羽ばたくルーマニアの自動車メーカー

ダチアは、ルーマニアを代表する自動車メーカーであり、現在フランスのルノーグループ傘下にあります。その社名は、ルーマニアの古代名「ダキア」に由来しています。1966年、「UAP」という社名で設立されたダチアは、翌年からルノー車のノックダウン生産を開始。ルノー8をベースにした「ダチア1100」、そしてルノー12をベースにした「ダチア1300」は、ルーマニアの自動車産業を牽引しました。当初は4ドアセダンのみでしたが、その後ステーションワゴンや5ドアハッチバックが追加され、さらには2ドアクーペの試作車「ブラショビア」も発表されるなど、モデルのバリエーションも豊富でした。1980年代初頭には、ルノー20をベースにした「ダチア2000」も生産され、主に政府高官や共産党幹部などに愛用されました。

1980年代半ば、ダチアはルノーから一時的に独立し、独自のモデル開発に乗り出します。その代表的なモデルが、排気量500ccの小型車「Lăstun（ダチア500）」です。「つばめ」を意味するルーマニア語の名前を持つこの車は、1989年まで生産されました。その後、1994年には5ドアセダンの「ノヴァ」を発売。ルーマニア革命前後の混乱により開発が遅れたものの、市場に登場しました。しかし、ダチアの経営状況は悪化し、1999年、ルノーが株式の過半数を取得、経営再建に着手することとなります。「ノヴァ」はルノー・クリオのエンジンを搭載した「スーパーノヴァ」に進化し、さらにフェイスリフトを経て「ソレンザ」として販売されました。

ダチアにとって転機となるのは、2004年の「ロガン」登場です。既存のルノー車の部品を巧みに組み合わせることで、6000ユーロ（東欧仕様、安全装備を除く）という驚異的な低価格を実現しました。まず4ドアセダンから発売された「ロガン」は、東欧諸国のみならず、フランスやドイツ、スペインなど西欧諸国にも輸出され、大きな成功を収めました。ロシアやコロンビア、モロッコ、インドなどでは現地生産も行われ、さらにイランや中国、マレーシアでの生産も計画されています。その後も、「ロガン」をベースとしたステーションワゴン（ロガンMCV）、バン、ピックアップトラックなどがラインナップに加わりました。

2008年にはハッチバックの「サンデロ」、2009年末にはクロスオーバーSUVの「ダスター」を発表。いずれも「ロガン」のプラットフォームを流用し、コストパフォーマンスの高さで人気を博しました。「ダスター」はフランスなどでは特に高い人気を誇り、バックオーダーが続出するほどでした。2011年にはイタリアでオンライン販売を開始。車種からオプションまで、わずか15クリックで注文できるシステムは、ヨーロッパ各国に広がっていきました。さらに、2012年にはミニバンの「ロッジー」とパネルバンの「ドッカー」を発表。これらのモデルは、モロッコのタンジェにあるルノーの最新工場で生産されました。販売地域も拡大し、インドやイギリス、アイルランドなど、左側通行の国々にも進出しました。2022年1月には、ダチアのクロスオーバーSUVである「サンデロ」が欧州で販売台数1位を獲得するなど、その人気は不動のものとなっています。

ダチアは、現在も「ロガン」、「サンデロ」、「ダスター」、「ジョガー」、「スプリング」など様々な車種を展開し、世界中の顧客に低価格で高品質な車両を提供しています。南米やロシア、インドなどでは、ルノーブランドで販売されるケースもあります。モータースポーツへの取り組みも活発で、かつてはアンドロス・トロフィーやパイクスピーク・ヒルクライムに参戦。近年は、STCC（スカンディナヴィア・ツーリングカー選手権）やダカール・ラリーにも参戦し、2025年にはプロドライブと提携してダカールラリーに本格復帰する計画です。また、「ローガン」を使ったワンメイクレース「ダチア・カップ」も開催されており、モータースポーツ分野でも存在感を示しています。ダチアは、今後も低価格戦略と多様なモデル展開によって、世界的な自動車メーカーとしての地位を確固たるものにしていくでしょう。

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