ダド・マリノ 対 白井義男戦

ダド・マリノと白井義男が拳を交えた世界フライ級タイトルマッチは、1952年5月19日、日本の後楽園球場にて開催されました。この一戦は、挑戦者であった日本の白井義男が、当時のチャンピオン、米国籍のダド・マリノに挑み、見事これを下した歴史的な試合として、日本のスポーツ史にその名を深く刻んでいます。

第二次世界大戦が終結してまだ日が浅い当時、国民が渇望していた希望の光をもたらす出来事として、白井義男への期待は非常に大きなものがありました。彼が世界王座に挑戦する機会を得たこと自体が、復興へ向かう日本のシンボルとなり得るものでした。この試合に先立ち、白井とマリノは既に二度対戦しており、この日が三度目の顔合わせでした。過去の対戦を踏まえ、両者にとって互いのスタイルを知り尽くした上での総力戦となることが予想されていました。

迎えた試合当日、後楽園球場には歴史的な瞬間を目撃しようと、多くの観衆が詰めかけました。会場は異様な熱気に包まれ、挑戦者白井義男への声援が鳴り響く中、試合のゴングが打ち鳴らされます。試合は白井が積極的に王者マリノに攻めかかる展開となりました。巧みなフットワークと正確なパンチでポイントを重ねた白井は、マリノの反撃を凌ぎながら、終始優位に試合を進めます。

そして迎えた最終ラウンド終了のゴング。判定の結果、白井義男の手が挙げられました。この瞬間、後楽園球場は割れんばかりの歓声に包まれました。白井義男の勝利は、日本ボクシング史上初めてのプロフェッショナル世界王者の誕生を意味し、まさに国民的快挙として受け止められました。敗れた王者ダド・マリノのファイトマネーは2万5000ドル（当時の闇ドルレートでおよそ400円換算）、白井のファイトマネーは40万円とされていますが、金額以上にこの試合が日本社会に与えた精神的な影響は計り知れません。

この歴史的な一戦が達成された5月19日は、その偉大な功績を称え、2010年に日本プロボクシング協会によって「ボクシングの日」として制定されました。この記念日は、白井義男が切り拓いた道と、その後の日本ボクシング界の発展を記憶するためのものとなっています。さらに、試合から60周年にあたる2012年には、既に故人となっていた白井義男と、この試合でマリノのトレーナーを務めていたスタンレー・イトウ氏（授与当時88歳）に対し、特別賞が贈られています。これは、世代を超えてこの試合の意義が語り継がれている証と言えるでしょう。

また、この試合の緊迫感と歴史的背景は、作家・坂口安吾によって『世紀の死闘--白井・マリノ決戦記』として文学作品にも描かれ、『オール讀物』1952年8月号に掲載されました。単なるスポーツイベントに留まらず、文化的な側面からも注目されたこの試合は、今なお多くの人々の記憶に残る、不滅の一戦です。

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