ダナエ (ティツィアーノ、エルミタージュ美術館)

ティツィアーノ工房の『ダナエ』：神話と官能の融合

この絵画は、ルネサンス期のヴェネツィア派の巨匠、ティツィアーノ・ヴェチェッリオの工房によって1553年から1554年頃に制作された油彩画です。主題はギリシア神話における英雄ペルセウスの母、ダナエの物語です。アルゴス王アクリシオスの娘であったダナエは、父王によって青銅の部屋に幽閉されますが、全知全能の神ゼウスが黄金の雨に変身して彼女と交わるという場面が描かれています。

作品の詳細

画面には、ベッドに横たわるダナエと、彼女の頭上に現れたゼウスが描かれています。ゼウスは雷光を伴う黒雲として現れ、その雲の間にはゼウスの顔が見えます。彼は黄金の雨、すなわち金貨に変身してダナエに降り注いでいます。画面右側では、年老いた女性の召使が驚き、腰のエプロンを広げて金貨を受け止めようとしていますが、ダナエ自身は冷静です。クッションに体を沈めるダナエの表情は半影の中にあり、ゼウスの愛を受け入れています。彼女の倦怠感は、表情よりもむしろ身体全体で表現されています。

ダナエは右の手首と薬指にブレスレットと指輪をはめ、ベッドの天蓋から垂れ下がる深紅のカーテンを掴んでいます。左の太腿を覆う白い布の上には、数枚の金貨が散らばっています。

この作品は保存状態は良好ですが、他の真筆とされるバージョンと比較すると、ダナエの顔の歪みや髪の描写など、品質がやや劣る点が指摘されています。

図像的系譜と制作年代

このバージョンの特徴は、黒雲の間にゼウスの顔が描かれている点です。全体の構図は、スペイン国王フェリペ2世のために制作された《ポエジア》のヴァリアントであり、《ポエジア》の『ヴィーナスとアドニス』とほぼ同じ大きさでした。ただし、18世紀末に上部の約3分の1が切断されており、切断された部分にはゼウスの顔（および雷と鷲）が描かれていたと考えられています。制作年代は、《ポエジア》の完成後間もない1554年頃と推測されています。

帰属について

この作品は、工房作と見なされることが多いですが、美術史家の中にはティツィアーノの作品であると認める者もいます。しかし、現在は完全な真筆画とは考えられていません。X線撮影による調査では、制作過程でいくつかの変更が加えられたことがわかっています。当初、ダナエの右手は現在よりも高い位置に描かれており、召使の顔も現在よりも若々しく、頭の被り物もスカーフ状で顎の下で結ばれていました。これらの変更はおそらくティツィアーノ自身によって行われたと考えられています。

来歴

この絵画は、1633年にフランスの国務長官ルイ・フェリポー・ド・ラ・ヴリリエールのコレクションに記録されています。その後、テヴェニン・コレクション、プルヴァレ・コレクションを経て、18世紀には美術収集家ピエール・クロザの重要なコレクションに加わりました。ピエールの死後、絵画は甥のシャテル侯爵ルイ・フランソワ・クロザとその兄弟に相続されました。クロザ・コレクションには、ラファエロ、ジョルジョーネ、レンブラントなどの傑作が含まれていました。1772年、クロザ・コレクションは哲学者・美術批評家ドゥニ・ディドロを通じて、ロシア皇帝エカチェリーナ2世に売却されました。この『ダナエ』は、クロザ・コレクションの「真珠」と見なされ、高額で評価されました。

所蔵

現在、この作品はロシアのサンクトペテルブルクにあるエルミタージュ美術館に所蔵されています。

この作品は、ティツィアーノ工房の技術と、神話の物語を魅力的に描く能力を示す重要な作品です。ダナエの官能的な姿と、神々しいゼウスの描写は、見る者を物語の世界に引き込みます。

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