ダニエル・マクファデン

ダニエル・リトル・マクファデン（Daniel Little McFadden, 1937年7月29日生）は、アメリカ合衆国の著名な計量経済学者である。

個人の意思決定、特に複数の選択肢の中から一つを選ぶという「離散選択」の行動を分析するための革新的な理論とその計量手法を開発した功績は極めて大きい。この研究が高く評価され、2000年にはジェームズ・ヘックマンと共にノーベル経済学賞を授与された。現在、南カリフォルニア大学で教鞭をとっている。

生い立ちと学歴

マクファデンは1937年、ノースカロライナ州ローリーで生まれた。早くから才能を示し、わずか19歳でミネソタ大学を卒業している（1957年、物理学の学士号を取得）。その後、大学院で専攻を移し、ミネソタ大学で社会心理学研究助教授を経て経済学を修めた。経済学博士号は1962年にミネソタ大学より授与されている（研究分野は行動科学）。博士課程時代の指導教官は、後に2007年にノーベル経済学賞を受賞することになる偉大な経済学者レオニード・ハーヴィッツであった。この師との出会いは、彼の後の研究に大きな影響を与えたと考えられている。

研究および職歴

博士号取得後、マクファデンはピッツバーグ大学経済学部の助教授としてキャリアをスタートさせた（1962-1963年）。1963年にはカリフォルニア大学バークレー校に移籍し、助教授となる。バークレー校在籍中に、彼は後に彼の名を高めることになる選択行動と計量経済理論に関する研究を精力的に開始した。1966年に准教授、1968年には教授に昇任し、1979年まで同校で研究・教育に励んだ。この期間中、バークレー校における計量経済学研究室の設立にも深く関わった。1978年から1991年までマサチューセッツ工科大学（MIT）の教授も兼任し、両校で指導を行った。1990年からはカリフォルニア大学バークレー校にE. Morris Cox Chair教授として戻り、再び中心的な役割を果たした。2011年からは南カリフォルニア大学に移り、保健経済学統括教授を務める傍ら、政策・計画・開発スクールおよび経済学部の教授も兼任し、現在に至る。

主要業績：離散選択分析

マクファデン教授の最も重要な業績は、人や組織が複数の可能な選択肢の中から、自身の効用や目的に照らして一つを選ぶという離散的な選択行動を、統計的な手法を用いて定量的に分析する枠組みを構築したことにある。彼の開発したロジットモデルやプロビットモデルなどの計量経済モデルは、それまで定性的な記述に留まりがちだった選択行動研究に、厳密な数理的・統計的アプローチをもたらした。これらのモデルは、交通手段の選択、住宅地の選定、消費者のブランド選択、労働市場における雇用選択、政策決定など、経済学はもとより、マーケティング、交通工学、都市計画、保健医療経済学といった多岐にわたる分野で応用され、人々の意思決定メカニズムの理解や将来予測に不可欠なツールとなっている。彼の理論と計算手法は、実証研究に新たな可能性を開き、経済学のフロンティアを拡大した。

受賞および栄誉

その傑出した研究成果に対し、マクファデン教授は多くの栄誉を受けている。特に、2000年に授与されたノーベル経済学賞は、計量経済学における彼の貢献が世界的に認められた証である。これ以前にも、1975年には40歳以下の優秀な経済学者に贈られるジョン・ベイツ・クラーク賞を受賞しており、若くしてその才能が高く評価されていたことがわかる。1981年にはアメリカの学術界で最も権威のある機関の一つである全米科学アカデミーの会員に選出された。1986年には計量経済学会が優れた論文に授与するフリッシュ賞を受賞。2000年にはアーウィン・プレイン・ネンマーズ経済学賞も受賞している。また、国際的な評価も高く、2001年には中国の華中科技大学より名誉博士号を授与されている。2005年にはアメリカ経済学会の会長を務め、アメリカ経済学界における指導的な役割を担った。

著書

マクファデン教授は多くの重要な論文を発表するだけでなく、共著や共編著の形で書籍も刊行している。主要なものとしては、『Microeconomic Modeling and Policy Analysis: Studies in Residential Energy Demand』（共著）や、『Structural Analysis of Discrete Data with Econometric Applications』（チャールズ・マンスキーとの共編著）などがあり、特に後者は離散選択分析の実証研究における基本的なテキストの一つとなっている。また、師レオニード・ハーヴィッツに捧げた論文集も共編している。

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