ダニー・コーエン (計算機科学者)

ダニー・コーエン：インターネットの礎を築いた計算機科学者

ダニー・コーエン（1937年 - 2019年）は、イスラエルで生まれ、アメリカで活躍した計算機科学者です。彼の研究と開発は、現代のインターネットの基盤を形成する上で重要な役割を果たしました。数学のバックグラウンドを持つコーエンは、イスラエル工科大学を卒業後、ハーバード大学でコンピュータグラフィックスの研究に没頭。アイバン・サザランドとの共同研究で生まれた「コーエン＝サザランド・アルゴリズム」は、線分クリッピングにおける画期的な手法として知られています。

1967年には、汎用コンピュータを用いたリアルタイム・ビジュアル飛行シミュレータとリアルタイム・レーダー・シミュレータを開発するという、当時としては驚異的な成果を達成しました。これらの研究は、後の彼の研究活動に大きな影響を与えました。

ハーバード大学での教員生活を経て、コーエンはカリフォルニア工科大学、南カリフォルニア大学情報科学研究所へと移り、ARPANETプロジェクトに参加します。これは、後のインターネットへと発展するネットワークの初期段階です。ここで、彼は革新的な技術開発に携わりました。特に注目すべきは、Network Voice Protocol（NVP）の開発です。これは、現代のVoIP（Voice over Internet Protocol）技術の直接的な前身と言える重要な技術であり、インターネット上でのリアルタイム音声通話を可能にしました。

コーエンの才能は、ネットワーク技術にとどまりませんでした。1980年代には、ジョークRFC「On Holy Wars and a Plea for Peace」の中で、「エンディアン」という用語を初めて使用しました。このRFCは、コンピュータネットワークにおける異なるデータ表現方法に関する問題をユーモラスに示したものです。また、分散型インタラクティブ・シミュレーション（DIS）の研究にも取り組み、アメリカ国防総省からの資金提供を受け、高速LAN技術であるATOMICを試作。その後、この技術を基にMyrinetを商用化するMyricom社を共同設立しました。

学術界と産業界の両面で活躍したコーエンは、国防総省や国立衛生研究所などの委員会や理事会にも参加。アメリカ空軍科学諮問委員会では5年間委員を務めました。また、VoIPに関する特許侵害訴訟では証人として参加するなど、その専門性は広く社会に貢献しました。

2001年からはサン・マイクロシステムズの最高技術責任者として、光と電気信号を用いた近距離超高速通信の研究に尽力しました。同時に、USC（南カリフォルニア大学）の計算機科学の非常勤教授も務め、教育にも力を注ぎました。

彼の業績は高く評価され、アメリカ空軍民間人功労賞、全米技術アカデミー会員、IEEEフェロー、インターネットの殿堂入りなど、数々の栄誉に輝きました。2013年には、ヴィント・サーフ（インターネットの父の一人）がGoogleでコーエンを称えるイベントを開催するなど、その功績は広く認められています。

2019年、81歳で他界しましたが、ダニー・コーエンの研究は、現代のインターネット社会の基礎を築いた重要な業績として、これからも語り継がれることでしょう。彼の残した論文やRFCは、ネットワーク技術の歴史を知る上で貴重な資料であり、未来の技術者たちにも多大な影響を与えることでしょう。

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