ダマスカスヤギ

ダマスカスヤギ（アラビア語: ماعز دمشقي、英語: Damascus goat）は、中東地域、特にシリアを主要な起源とする歴史ある家畜ヤギの品種です。

この品種は、その発祥地や関連する地域によって、アレッポ、ハレプ、バラディ、そして特に広く知られているシャミ（الشامي）やチャミといった様々な別名で呼ばれています。これらの名称は、それぞれが持つ地域的な特徴や歴史的な背景を反映しています。

ダマスカスヤギの最も重要な特性は、高い乳生産能力と肉生産能力を兼ね備えた優れた乳肉兼用種である点にあります。この二重の生産能力は、資源が限られる環境下で最大限の効率を求める畜産において極めて有利であり、この品種が地域経済や食料供給において果たす役割を非常に大きなものにしています。豊富な乳は栄養価が高く、多様な乳製品の原料となり、また良好な肉質は食肉としても高い評価を得ています。

この品種の歴史を語る上で欠かせないのが、キプロスにおける改良の経緯です。中東で古くから飼育されてきたダマスカスヤギは、後にイギリス人によってキプロス島へと導入されました。キプロスでは、島の気候や環境に適応させながら、計画的な繁殖選抜が行われました。この過程で、特に乳量や体格といった経済的に重要な形質がさらに向上し、現在のダマスカスヤギが持つ優れた生産性が確立されたと考えられています。このように、原産地での長い歴史と、キプロスなどでの積極的な品種改良の積み重ねが、今日のダマスカスヤギを形成しています。

ダマスカスヤギの優れた生産性と地域社会への貢献は、国際機関からも高く評価されています。国際連合食糧農業機関（FAO）は、この品種に対し高い優先順位を与えています。これは、ダマスカスヤギが世界の畜産資源の多様性を維持する上で重要であること、そして特にその適した環境下での食料生産において、中心的な役割を担う可能性を秘めていることを示しています。FAOによるこの評価は、品種の保護とさらなる能力向上に向けた取り組みの重要性を裏付けています。

また、ダマスカスヤギはその独特な容姿や堂々とした佇まいから、美しさの面でも注目を集めることがあります。実際に、2008年6月13日にサウジアラビアの首都リヤドで開催された「Mazayen al-Maaz」というヤギの品評会において、「Qahr（カフル）」と名付けられた一頭のダマスカスヤギの雄が、「最も美しいヤギ（Most Beautiful Goat）」の最優秀賞に輝いたという逸話はよく知られています。この出来事は、ダマスカスヤギが単に生産性の高い家畜であるだけでなく、その姿が人々を魅了し、美しさの対象ともなり得る存在であることを示しています。

総じて、ダマスカスヤギは中東に起源を持つ多用途なヤギ品種であり、優れた乳肉生産能力とキプロスでの改良の歴史、そして国際機関からの高い評価によって、世界の畜産において重要な位置を占めています。その独特な姿と経済的な価値、そして歴史的な背景は、この品種を非常に魅力的なものにしています。今後も、地域社会の生計維持や食料安全保障において、重要な役割を果たしていくことが期待されています。

もう一度検索