ダンケルク (1964年の映画)

『ダンケルク』は、1964年に公開されたドラマ映画です。フランスの巨匠アンリ・ヴェルヌイユがメガホンを取り、当時フランス映画界を代表するスターであったジャン＝ポール・ベルモンドが主演を務めました。

この映画の原作は、フランスの作家ロベール・メルルが1949年に発表し、同年フランス文学界で最も権威ある賞の一つであるゴンクール賞を受賞した小説『ズイドコートの週末（Week-end à Zuydcoote）』です。小説は、第二次世界大戦初期のダンケルクの戦いを舞台に、極限状況に置かれた兵士たちの姿を生々しく描いた傑作として知られています。

物語の舞台は、1940年5月末から6月にかけてのフランス北部の港湾都市ダンケルクとその周辺です。ドイツ軍の快進撃によって、イギリス軍を中心とした連合国軍がこの海岸線に追い詰められ、海を隔てたイギリス本国への大規模な撤退作戦が進められていました。映画は、この歴史的な出来事を背景に、一人のフランス人兵士の視点から描かれます。

主人公はフランス陸軍の二等兵、ジュリアン・マーヤです。彼は、ダンケルクの海岸で他の多くの兵士たちと同様に、イギリス海軍や民間の船舶による救出を待ち望んでいます。彼の唯一の希望は、なんとかしてイギリスへ向かう船に乗り込み、この地獄から脱出することでした。ジュリアンは、同じく窮地に陥った仲間たちと協力しながら、様々な手段を講じて船に乗る機会を探ります。しかし、混乱を極める海岸では、膨大な数の兵士が限られた船に殺到しており、乗船は至難の業でした。ジュリアンの試みはなかなか実を結ばず、時間だけが無情に過ぎていきます。

刻一刻と戦況は悪化し、ドイツ軍の包囲網は狭まってきます。空からはドイツ軍機による容赦ない攻撃が続き、海岸には救助を待つ兵士、負傷者、そして多くの犠牲者が溢れかえっていました。ジュリアンと彼の周囲の人々は、飢えや疲労、そしていつ自分たちに死が訪れるかわからない恐怖に苛まれます。そのような絶望的な状況の中で、彼らは生き残るために必死にもがき、人間性が試される様々な出来事に直面することになります。映画は、壮大な戦場の描写だけでなく、極限下における兵士たちの心理的な葛藤や、生への強い執着、あるいは諦めといった人間の内面に深く切り込んで描いています。

本作は、フランス本国で大きな成功を収め、300万人を超える観客を動員しました。これは、原作の持つ普遍的なテーマと、ジャン＝ポール・ベルモンドをはじめとする俳優陣の熱演、そしてアンリ・ヴェルヌイユ監督の緻密な演出が高く評価された結果と言えるでしょう。

日本においても本作は公開され、特にテレビ放送を通じて広く知られることとなりました。1969年11月3日にはTBSの『月曜ロードショー』で、1973年7月27日にはフジテレビの『ゴールデン洋画劇場』で、それぞれ異なる日本語吹き替え版が初回放送されています。これらの日本語吹き替え版は、オムニバスプロモーションによって制作されました。

『ダンケルク』は、単なる戦争映画としてだけでなく、極限状況に置かれた人間の尊厳や弱さ、そして生き残ろうとする強い意志を描いた、普遍的なテーマを持つ人間ドラマとして、今なお多くの人々に語り継がれています。

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