ダンバートン・オークス

ワシントンD.C.のジョージタウン地区に位置するダンバートン・オークスは、ハーバード大学に所属する著名な研究機関です。その施設は、専門的な研究図書館、多岐にわたるコレクションを収蔵する博物館、そして美しい景観を持つ庭園から構成されています。この機関は特に、古代ビザンティン世界の歴史と文化、そしてコロンブスによる新大陸到達以前のアメリカ大陸における様々な文化の研究および関連資料の収集において、国際的に高く評価されています。

歴史

「ダンバートン」という名称は、元々この地域の地名に由来し、その語源は古く「ブリテン人の砦」を意味します。1702年頃、ニニアン・ビール大佐がアン女王から賜った土地の一部がこの場所であり、彼は故郷に敬意を表してこれを「ロック・オブ・ダンバートン」と名付けました。その後、19世紀初頭にはウィリアム・ハモンド・ドーシーによって最初の住居や温室が建てられ、ジョン・C・カルフーンの邸宅として使用された時期もありました。1846年に土地を購入したエドワード・マグルーダー・リンシカムは、19世紀半ばにかけて邸宅を大幅に拡張し、「ジ・オークス」と名付けました。その後、ヘンリー・F・ブラントの所有を経て、歴史は次の段階へと進みます。

1920年、外交官ロバート・ウッズ・ブリスとその妻ミルドレッドがこの邸宅を購入しました。彼らはこの地の歴史的な名称を尊重し、1933年に「ダンバートン・オークス」と改名しました。購入時の敷地は約22ヘクタールという広大さで、ミルドレッド夫人の主導により、それまでの農地がコロニアル様式の邸宅にふさわしい、ベアトリクス・ファーランドが設計した壮麗なヨーロッパ風庭園へと生まれ変わりました。外交官として世界各地を転々としていたロバート・ブリスでしたが、1933年の引退後は夫妻でこの地を本拠としました。

ブリス夫妻は、外交や社会活動に加えて、熱心な芸術品や書籍の収集家としても知られていました。特にミルドレッド夫人は芸術家のパトロンであり、ダンバートン・オークスは文化的な催しや音楽の夕べが頻繁に開かれる、活気あふれる文化サロンとしての側面も持っていました。

居住を始めてわずか7年後の1940年、ブリス夫妻はダンバートン・オークスの大部分をハーバード大学へ寄贈するという画期的な決断を下しました。寄贈された資産には、邸宅、庭園の一部（約6.5ヘクタール）、そして彼らが長年かけて築き上げた貴重なコレクションや蔵書が含まれていました。庭園の残りの部分は、公共の公園やワシントンD.C.にあるデンマーク大使館の敷地として寄贈されました。夫妻の学術振興への強い意志は、その後の研究奨励金の設立にも繋がります。1940年にはビザンティン研究、1963年には先コロンブス期研究のための奨励金が設立され、さらにミルドレッド夫人の遺志により、彼女の没後である1969年には庭園及び造園史研究のための奨励金制度も始まりました。

コレクション

ダンバートン・オークスは、その専門分野に関連する質の高いコレクションを誇っています。

ビザンティン・コレクション: 約1200点に及ぶ遺物に加え、約24000点の硬貨や印章を含む、ビザンティン帝国の歴史と文化を網羅する資料群。
先コロンブス期コレクション: メソアメリカ、アンデス文明、およびその中間領域から集められた700点以上の資料。古代アメリカ大陸の多様な文明が遺した芸術品や工芸品を展示。
ハウス・コレクション: ブリス夫妻の旧邸宅に飾られていた、西洋、アジア、アメリカ各地の歴史的な家具や装飾品。特に夫妻の音楽室として使われていた部屋に展示されています。
庭園図書館: ミルドレッド夫人が情熱を注いで収集した、庭園の歴史、デザイン、植物学に関する貴重な書籍や資料の特別コレクション。造園史研究者にとって不可欠なリソースとなっています。

研究活動と出版

ダンバートン・オークスは、ハーバード大学出版局と連携して、学術的な出版活動を積極的に行っています。特に、1941年以降毎年発行されている学術雑誌『Dumbarton Oaks Papers』は、ビザンティン研究分野における主要な国際的出版物の一つです。また、ビザンティン研究、先コロンブス期研究、庭園・造園研究の3つの分野において、国内外の研究者に対して研究奨励金を提供し、新たな研究の推進と人材育成を支援しています。

ダンバートン・オークス