アンデス文明

アンデス文明：南米大陸に花開いた独自の文化

アンデス文明は、1532年のスペインによるインカ帝国征服以前、ペルーを中心とした南米大陸のアンデス山脈沿いに栄えた、独自の文明です。メソポタミア、エジプト、インダス、黄河といった四大文明とは異なり、文字を持たないことが大きな特徴です。その起源は、およそ1万2000年前、ベーリング海峡を渡ってアジアから移動してきたとされる古モンゴロイドに遡ると考えられています。メソアメリカ文明とは関係性が不明な点があり、独自の発生とされるため「世界の四大一次文明」に数えられることもあります。

アンデス文明の特徴

アンデス文明は、海岸部、山間盆地、高原地帯という多様な環境に広がっていました。その特徴を以下に7点にまとめて記述します。

1. 文字を持たない: 代わりに、キープと呼ばれる縄の結び目で情報を記録する独自のシステムを用いていました。
2. 青銅器文化: 鉄器は使われず、青銅器も限定的に利用されていたため、新石器文化に近い段階でした。
3. 金銀細工の発達: 金や銀の精緻な加工技術を持ち、多くの製品がスペイン人によって略奪されました。
4. 家畜飼育: リャマ（荷運び）、アルパカ（毛、食用）、テンジクネズミ（食用）などを飼育していましたが、ラクダ科動物の乳利用はほとんどありませんでした。
5. 車輪の非使用: 車輪の概念がなく、荷車や戦車は発達しませんでした。
6. 塊茎類中心の食生活: ジャガイモ、オカ、マシュアなど、塊茎類が主食でした。トウモロコシは、主にチチャと呼ばれる酒の原料として利用されていました。海岸部では、魚介類も重要な食料源でした。
7. 生態系との密接な関係: アンデス山脈の多様な生態系を巧みに利用し、垂直的な資源管理が行われていたと考えられています（垂直統御説）。

さらに、アイリュと呼ばれる地縁・血縁集団、双分制、コカの葉を使った儀礼などもアンデス文明の特徴です。興味深いことに、頭蓋骨の外科手術の痕跡が発見されており、コカが麻酔として用いられていた可能性も示唆されています。また、世界最古の免震装置であるシクラも発見されています。文明の中心は、ペルー北部の海岸部とティティカカ湖周辺の2ヶ所とする説がありますが、これは現在も仮説の段階です。

アンデス文明と現代

スペインによる征服でアンデス文明は大きな打撃を受けましたが、一部の文化は現代にまで生き残っています。アイリュのような社会組織、インカ時代の農法や段々畑（アンデネス）、家畜飼育、チチャの醸造など、物質文化だけでなく、パチャママ信仰のような精神文化も、カトリックと融合するなどしながら現代でも受け継がれています。

アンデスの生態学的環境

アンデス文明の理解には、アンデス地域の多様な生態系を理解することが不可欠です。海岸砂漠、熱帯雨林、高地草原など、標高差による多様な環境が、文明の発展に大きな影響を与えました。

アンデス文明の歴史

アンデス地域への人類の定着は、1万4000年前まで遡ると考えられていますが、確実な証拠は1万1000年前です。紀元前5000年頃には農耕と牧畜が始まり、紀元前2500年頃には、カラル遺跡などの大規模な石造建築が確認されます。紀元前1800年頃には土器の使用が始まり、その後、チャビン文化、モチェ文化、ナスカ文化、ワリ文化、ティワナク文化など、様々な地域文化が興隆と衰退を繰り返しました。15世紀には、インカ帝国がアンデス全域を統一し、その後のスペインによる征服まで続きました。

インカ帝国とその終焉

インカ帝国は、アンデス文明の集大成であり、それまでの技術や制度を統合・発展させました。しかし、1532年、わずかなスペイン軍隊によって征服され、1万年以上続いたアンデス文明は終焉を迎えました。独自の進化を遂げたアンデス文明は、人類史における壮大な実験であり、旧大陸の文明とは異なる特徴を持つ一方で、ピラミッド型の社会構造など共通点も見られます。

もう一度検索