チェコのアニメーション

チェコアニメーションの歴史

チェコのアニメーションは、人形アニメーションを中心に独自の発展を遂げ、東ヨーロッパ圏で最大の製作国として知られています。チェコのアニメ作家たちの功績は世界的に高く評価されており、彼らの作品群は「チェコアニメ映画学校」と称されるほどです。本稿では、チェコアニメーションの黎明期から現代までの歴史を詳細に解説します。

チェコアニメの黎明期

チェコにおける最初のアニメーション作品は、1926年に広告画家のカレル・ドダルと彼の妻ヘルミーナ・ティールロヴァーによって制作された『恋する河童』とされています。その後、ドダル夫妻はロシアのアレクサンドル・プトゥシコの『新ガリヴァー』に触発され、人形アニメーションの制作を開始しました。1936年には人形と動画を組み合わせた『どこにでも顔を出すひとの冒険』、1938年には人形アニメ『カンテラの謎』を発表しました。しかし、1939年にドダルはナチス・ドイツを避けて国外に亡命し、ティールロヴァーはチェコに残り、モラヴィアのスタジオで制作を続けました。1944年には人形アニメ『アリのフェルダ』を完成させています。

映画史家のジョルジュ・サドゥールは、ドダル夫妻の作品を「注目すべき成果」と評しています。一方、1939年にチェコスロバキアを保護国としたドイツは、プラハの映画会社を接収し、ディズニーに対抗するオペラ・アニメーションの製作を試みましたが、この計画は未完に終わりました。しかし、チェコ人たちは自ら『珊瑚海の結婚式』を製作し、終戦までに完成させました。この作品には、後にチェコアニメ界で活躍する多くのクリエイターが参加しています。

第二次世界大戦後、1945年にプラハに国立映画製作所が設立され、人形劇の美術やイラストレーションで活躍していたイジー・トルンカが責任者に就任しました。トルンカ、ティールロヴァー、カレル・ゼマンらが本格的に活動を開始した1945年は、「チェコアニメ誕生の年」とされています。人形アニメによる表現を追求したトルンカ、布や毛糸などを用いた物体アニメを制作したティールロヴァー、アニメと実写を組み合わせた映像を表現したゼマンは、1960年代までチェコアニメを代表する作家として活躍しました。

1940年代-1950年代

1940年代末、チェコのアニメ製作者はイデオロギーを作品に反映させることを主張するグループと、それに反発するトルンカらのグループに分かれていました。1948年に社会主義政権が樹立されると、アニメーションを含む映画産業は国有化されました。初期には自由な創作活動が行われていましたが、次第に政府の干渉が強まり、1950年代のスターリン主義時代や1970年代のブレジネフ時代には特に顕著になりました。政府は国際的な映画祭での成功を求め、製作者に規律への服従を強制することがありました。

しかし、海外からの受注に応じて制作を行う部署にはある程度の独立性があり、レンブラント・フィルム社やウェストン・ウッド社が主要な顧客となっていました。アニメ映画の初期には、制作スタッフが様々なスタジオに分散していたため、移動に不都合が生じていました。しかし、この環境が小さく統制の取れた小規模なグループを生み出し、質の高い作品を安価で制作することを可能にしました。後にスタジオはプラハ郊外に集められましたが、小規模なグループの多くは消滅しました。

1946年のカンヌ国際映画祭では、トルンカの『動物たちと山賊』などのセルアニメが成功を収め、彼の作風が世界に知られるとともに、ナチスから解放されたチェコスロバキアの姿を世界に伝えました。トルンカが去った後のトリック兄弟スタジオは、エドゥアルト・ホフマンが所長となり、1950年代にはセルアニメの分野に多様な人材が現れました。1958年にホフマンが制作した『天地創造』は、チェコ初の長編セルアニメであり、彼の最高傑作と評価されています。しかし、制作費が高いため、チェコではセルアニメの制作はあまり盛んではありませんでした。

1960年代-1970年代

1960年代に入ると、美術学校出身者がアニメ制作に携わるようになりました。トルンカのスタジオで脚本を担当していたイジー・ブルデチカは、動画と切り紙によるアニメを制作し、評論も手がけるようになりました。また、ヤロスラフ・ボチェックは『ザ・ウィドウ・オブ・エフェサス』で人形の緻密な動きを表現し、人形アニメの評価を再び高めました。トルンカの死後、脚本家のカミール・ピクサはオストラヴァにアニメスタジオを開設し、精力的に活動しました。ピクサは毎年短編映画の上映会を開催しており、そのアニメーション部門は後にチェスケー・ブジェヨヴィツェの映画祭アニマフィルムとして独立しました。

1968年のプラハの春の後、政府は作品にイデオロギー的な規律を求め、監督や芸術家と対立しました。トルンカのスタジオで制作が始まった『ファンタスティック・プラネット』は、1973年に監督のルネ・ラルーの母国であるフランスで公開されましたが、ソ連によるチェコスロバキア侵攻の影響で制作は難航しました。

この時期には、ガリク・セコの『ストーン・アンド・ライフ』、ヤン・ザラドニックの『ザ・ストロール』、カミール・ピクサの『マイスター・アヌシュの話』など、多様な表現を用いた作品が制作されました。しかし、これらの作品は芸術性は高いものの、物語や構成に難があるものが多く、一部の愛好家のみに評価されていました。一方、ブジェチスラフ・ポヤルの児童向けアニメ『ぼくらと遊ぼう!』や『庭』は、動作の楽しさ・面白さで高い評価を得ました。また、ヤン・シュヴァンクマイエルのシュールレアリズムに基づいた斬新な物体アニメは、強い衝撃を与え、多くの追随者を生み出しました。しかし、シュヴァンクマイエルの作品がチェコ国内で評価されるようになったのは、ビロード革命による民主化以降です。

1980年代には、トルンカの影響を受けていないデザインの人形を使うイジー・バルタが注目を集めました。また、トルンカのスタジオで人形アニメで成功した製作者の中から、新生代のセルアニメの担い手が現れ、イゴル・シェフチークの『シエスタ』は、セルアニメに新たな可能性を示しました。

ビロード革命以降

1989年のビロード革命以降、民営化されたチェコアニメ界は、かつてのような芸術性の高い作品を制作する資金が不足しています。知性、芸術性、映画言語の尊重、ヒューマニズムといったチェコアニメ独自の要素は、商業的な成功を阻害する原因となり、芸術性の高い作品は映画祭以外では発表の機会が限られています。1989年以降のチェコアニメは、外国の下請け作品、人気テレビアニメの再生産、文化省やチェコテレビの支援を受けた少数の作家による芸術作品が中心となっています。

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