チェルノブイリ1986

チェルノブイリ1986：事故の悲劇と人々の勇気、そして家族愛

2021年に公開されたロシア映画『チェルノブイリ1986』（原題：Чернобыль）は、ダニーラ・コズロフスキー監督・主演による歴史ドラマ・ディザスター映画です。1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故を、プリピャチの消防士アレクセイの視点から描いた作品ですが、史実を基にしたフィクションとして描かれています。

物語：愛と別れ、そして犠牲

アレクセイは10年ぶりに再会した恋人オリガと、彼女との間に生まれた10歳の息子アリョーシャの存在を知ります。復縁を望むアレクセイでしたが、過去の約束を果たせなかったことでオリガの反発を受け、キエフへの同行も拒否されます。

その夜、チェルノブイリ原発の爆発を目撃したアリョーシャ。爆発の知らせを聞いたアレクセイは、消火活動に向かう消防車に乗り込みます。現場では同僚たちが被曝し、アレクセイも病院に搬送されますが、到着が遅かったため重症は免れます。

アレクセイは、発電所の構造を熟知していたことから事故対策委員会に招集されます。そこで彼は、事故の深刻さと、貯水タンクへの原子炉落下による水蒸気爆発の危険性を知らされます。委員会は貯水タンクの水を放出する危険な作業を計画しますが、アレクセイは当初は拒否します。しかし、避難命令が出されたプリピャチで、アリョーシャが被曝していることが判明します。委員会が提示した「スイスでの放射線治療」という条件を考え直し、アレクセイは息子の治療を条件に作業に参加することを決意し、オリガと別れます。

4月28日、アレクセイは他の隊員と共に発電所内に潜入します。危険な作業の中で、仲間を失いながらも、制御盤の電源を入れ、排水を試みますが、排水ポンプの故障により作戦は失敗に終わります。仲間の犠牲を乗り越え、アレクセイは新たなチームと共に再び発電所内へ。命がけの作業で排水バルブを動かすことに成功しますが、彼はヴァレリィを失い、自身も重度の被曝を受けます。

死の淵でオリガと再会したアレクセイ。その後、スイスで治療を受けたアリョーシャが回復し、キエフに戻ってきます。

製作：歴史的惨事の新たな解釈

プロデューサーのアレクサンドル・ロドニャンスキーは、事故直後に現地入りし撮影を行った経験を持つドキュメンタリー監督。彼は長年、この経験を映画化することを夢見ていました。2015年、完成した脚本をダニーラ・コズロフスキーに送付し、主演を依頼しました。コズロフスキーは当初は出演を躊躇していましたが、脚本に感銘を受け出演を決意します。

製作陣は、既存の『チェルノブイリ』（HBO制作）とは異なり、政治的側面よりも、事故現場で尽力した人々の人間ドラマに焦点を当てました。2019年、クルスク原子力発電所、モスクワ、ブダペスト、クロアチアで撮影が行われ、ロシア映画財団などから資金援助を受けました。

公開と評価：賛否両論

ロシアではCOVID-19パンデミックの影響で公開が延期されましたが、2021年4月に公開。その後、北米や日本でも公開され、日本では配給会社が収益の一部をウクライナへの支援に寄付しました。評価は賛否両論で、ソ連政府の隠蔽体質を軽視しているという批判や、ハリウッド映画と同様の「歴史の書き換え」を行っていると指摘する声がある一方、「個人の役割やヒロイズム」を強調したロシアらしい作品であると評価する声もあります。

まとめ

『チェルノブイリ1986』は、チェルノブイリ事故を、国家レベルの政治問題ではなく、個人の勇気と犠牲、そして家族愛という側面から描いた作品です。事故の悲劇と、それを乗り越えようとした人々のドラマは、観る者の心に深い感銘を与えます。

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