チェレヴィチキ

オペラ『チェレヴィチキ』解説

『チェレヴィチキ』（ロシア語: Черевички）は、ピョートル・チャイコフスキーが作曲した全4幕8場のオペラです。作品名は「小さな靴」または「女帝の靴」などと訳されます。

作曲の経緯

作曲は1885年、ロシアのマイダノヴォにて行われました。リブレットはヤーノフ・ポロンスキーが、ニコライ・ゴーゴリの短編集『ディカーニカ近郷夜話』の一編「クリスマス・イヴ」を題材として執筆しました。このオペラは、チャイコフスキーが以前に作曲したオペラ『鍛冶屋のヴァクーラ』を改作したものです。

『鍛冶屋のヴァクーラ』も『チェレヴィチキ』も、元々はアレクサンドル・セローフのために用意されたポロンスキーのリブレットを使用していますが、セローフの死によって日の目を見ることがありませんでした。チャイコフスキーとニコライ・チャエフがこの台本に加筆・修正を施し、改訂版として生まれ変わらせました。

改訂版では、『鍛冶屋のヴァクーラ』の主要な主題がそのまま用いられています。チャイコフスキーは、この改訂によってオペラを「忘却の河から救い出す」ことを願ったとされています。改訂の主な点は、テクスチュアの簡素化、ヴァクーラに新たなアリアを追加して深みを増したこと、教師の歌と皇帝の詩を追加して表現形式に広がりを持たせたこと、そして合唱場面（No. 13）での配役の変更です。

演奏史

初演は1887年1月31日（ユリウス暦1月19日）、モスクワのボリショイ劇場にて、作曲者自身の指揮で行われました。20世紀に入ると上演機会は激減し、主にロシアやソ連でのみ再演されるにとどまりました。ポーランド初演は1952年1月28日、グダニスクのバルティック・オペラで行われています。ウェックスフォード・オペラ・フェスティバルでは1993年に新演出で5回上演されました。イギリス初演は2004年6月26日のガージントン・オペラ公演で、その後2009年11月20日にロイヤル・オペラ・ハウスで上演され、そのうち一夜の公演が放送されました。

配役

主要な登場人物は以下の通りです。

オクサナ：村の娘。ヴァクーラの恋人。
ヴァクーラ：鍛冶屋。オクサナを愛している。
ソローハ：魔女。ヴァクーラの母。
悪魔：ヴァクーラにいたずらをする。
チュブ：オクサナの父。

楽器編成

ピッコロ2、フルート2、オーボエ2、クラリネット2（B♭とA）、ファゴット2、ホルン4（F）、トランペット2（FとE）、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、トライアングル、タンブリン、シンバル、大太鼓、ハープ、弦五部、(舞台外に)吹奏楽隊が用いられます。

一部の楽曲は、1885年にチャイコフスキー自身によってピアノ伴奏歌曲やピアノ4手用に編曲されています。

あらすじ

舞台は18世紀末のウクライナのディカーニカとサンクトペテルブルクです。

第1幕

魔女である未亡人のソローハは、悪魔と手を組み月を盗もうとします。悪魔は、自身の肖像を嘲笑するソローハの息子ヴァクーラに腹を立てています。悪魔は雪嵐を起こし、ヴァクーラが恋人のオクサナに会えないようにします。嵐の中、ソローハは空へ飛び立ち月を盗み、オクサナの父チュブと助祭は道に迷います。オクサナは家で一人、ヴァクーラを待ちますが、そこへヴァクーラが現れます。ヴァクーラはオクサナに愛を伝えますが、オクサナは彼をからかいます。そこへ嵐から帰ってきたチュブをヴァクーラは追い返してしまい、一部始終を見ていたオクサナはヴァクーラを突き放します。

第2幕

助祭、チュブ、悪魔が次々とソローハを誘惑しようと彼女の小屋にやってきますが、袋に閉じ込められてしまいます。ヴァクーラは重い袋を捨てようとしますが、オクサナは女帝の靴を手に入れなければ結婚しないと言い、ヴァクーラを困らせます。ヴァクーラは絶望し、自暴自棄になります。

第3幕

森の精霊は、水の精にヴァクーラが自殺しようとしていることを知らせます。悪魔はヴァクーラの袋から飛び出し、オクサナと引き換えにヴァクーラの魂を手に入れようとしますが、ヴァクーラは悪魔を捕まえ、サンクトペテルブルクへ向かわせます。ヴァクーラは女帝に謁見するコサックの一団に紛れ込み、女帝に靴を見せてもらうよう願い出て、認められます。ロシアとコサックの踊りが始まると、悪魔はヴァクーラを連れてその場を去ります。

第4幕

クリスマスの朝、村ではヴァクーラが自殺したと考えられ、嘆き悲しんでいます。ヴァクーラは靴を持って戻り、チュブに殴ったことを謝罪し、オクサナとの結婚を申し込みます。オクサナは自分が欲しいのは靴ではなくヴァクーラだと伝え、二人は結ばれます。

関連作品

チャイコフスキー: オペラ『鍛冶屋のヴァクーラ』 （1874年）
* リムスキー＝コルサコフ: オペラ『クリスマス・イヴ』 （1895年）

上記3作品は全て、ニコライ・ゴーゴリの同名作品を基にしています。

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