チェロソナタ (ラフマニノフ)

ラフマニノフ：チェロ・ソナタ ト短調 作品19

セルゲイ・ラフマニノフが1901年に書き上げた《チェロ・ソナタ ト短調》作品19は、彼の室内楽作品の中でも特に重要な位置を占める楽曲です。このソナタにおいて、ラフマニノフは伝統的な「チェロとピアノ」という編成におけるピアノの役割を、単なる伴奏楽器としてではなく、チェロと同等、あるいはそれ以上の表現力を持つ主要な楽器として扱いました。この独自の考え方は、作品の初版が『ピアノとチェロのためのソナタ』と題されていたことからも伺えます。実際、技巧的にも内容的にも充実したピアノパートは、チェロパートと緊密に絡み合い、豊かな響きを生み出しています。

このソナタは、結果的にラフマニノフが創作した最後の大規模な室内楽作品となりました。

作曲の背景

本作が生まれるまで、ラフマニノフは決して順調な時期を過ごしていたわけではありません。1897年の《交響曲第1番》初演が酷評されたことで、彼は深い精神的な苦悩、いわゆる鬱病に苛まれ、約3年間、作曲活動が停滞していました。この困難な状況を脱するため、彼はニコライ・ダーリ博士による催眠療法を受けました。その治療が功を奏し、ラフマニノフは徐々に創作意欲を取り戻します。1900年には、後に彼の代名詞ともなる《ピアノ協奏曲第2番》に着手し、その完成に続いて、本作であるチェロ・ソナタの作曲に精力的に取り組みました。

初演とその後の経緯

このソナタは、ラフマニノフの親しい友人であり、優れたチェリストであったアナトーリー・ブランドゥコーフに献呈されました。初演は1901年12月2日、モスクワで行われ、チェロを献呈相手のブランドゥコーフ自身が、ピアノをラフマニノフ自身が担当しました。ブランドゥコーフは、これ以前にもラフマニノフの《悲しみの三重奏曲第1番》（1892年完成）の初演を務めるなど、作曲家の室内楽において重要な役割を果たしていました。初演の後、ラフマニノフは楽譜にいくつかの改訂を加えたと見られており、現在知られる初版には「1901年12月12日」という日付が記されています。

楽曲の構成

作品は、伝統的なソナタの形式に従い、以下の4つの楽章から構成されています。全曲を通して演奏時間は、第1楽章の提示部反復を含めると約35分強に及ぶ大作です。

1. 第1楽章：レント – アレグロ・モデラート （ト短調）
静かで厳粛な導入部から、情熱的で広がりを持った主部へと移行します。チェロとピアノが対話を繰り広げながら、ドラマティックに展開されます。
2. 第2楽章：アレグロ・スケルツァンド （ハ短調）
力強く、リズムカルなスケルツォ楽章です。ピアノの駆けるようなパッセージとチェロの明確な主題が印象的です。
3. 第3楽章：アンダンテ （変ホ長調）
緩やかで美しい、全曲の中心とも言える叙情的な楽章です。ラフマニノフ特有の甘く切ない旋律がチェロによって歌われます。この楽章は特に人気があり、後にピアニストのアルカーディ・ヴォロドスによってピアノ独奏用に編曲され、広く知られるようになりました。
4. 第4楽章：アレグロ・モッソ （ト長調）
輝かしく、推進力のある終楽章です。様々な要素が組み合わされ、壮大なクライマックスへと向かい、曲を締めくくります。

受容と録音

ラフマニノフのチェロ・ソナタは、作曲されて以来、多くの著名なチェリストとピアニストによって演奏され、録音されてきました。ムスティスラフ・ロストロポーヴィチやダニイル・シャフラン、ヨーヨー・マ、リン・ハレル、トルルス・モルクといったチェリストたちと、彼らのパートナーを務めた多くのピアニストたちによる数々の名演が残されています。これらの録音を通して、この作品が持つ深い情感と力強い表現が、時代を超えて聴き継がれています。

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