チェロソナタ第1番 (メンデルスゾーン)

チェロソナタ第1番 変ロ長調 作品45

フェリックス・メンデルスゾーン（Felix Mendelssohn, 1809-1847）が手がけたチェロとピアノのための作品のうち、番号が付けられた最初のソナタが、この「チェロソナタ第1番 変ロ長調 作品45」です。1838年に作曲され、アマチュアながら優れたチェロ奏者であった実弟のパウル・メンデルスゾーンに献呈されました。同時代の高名な作曲家ロベルト・シューマンは、このソナタを高く評価したことで知られています。

メンデルスゾーンが生涯に作曲したピアノとチェロのための作品は全部で4曲あり、そのうちソナタとして番号が付されているのは本作とチェロソナタ第2番 作品58の2曲です。第1番は作曲家が29歳頃の作品であり、彼の初期から中期にかけての円熟味を増していく時期に位置づけられます。

この作品は、その音楽語法において古典派音楽の伝統を深く尊重しています。楽章構成や形式的な枠組みは極めて端正に整えられており、ベートーヴェンなどが確立したソナタの伝統が忠実に受け継がれています。その一方で、随所にメンデルスゾーンらしい流麗な旋律や、輝かしい情熱、そして心に染み入るような温かい抒情性が織り込まれており、古典的な形式の中にロマン派的な情感が見事に融け合っています。自身も卓越したピアニストであったメンデルスゾーンらしく、このソナタのピアノパートは非常に技巧的であり、高度な演奏技術を要求する難易度の高いものとなっています。

全3楽章で構成されており、標準的な演奏時間は約25分です。

楽章構成

第1楽章 アレグロ・ヴィヴァーチェ (Allegro vivace)

変ロ長調、4分の4拍子。ソナタ形式で書かれています。楽章は、メンデルスゾーンの他の作品では比較的珍しい、半音階を多用したどこか陰りを帯びた、問いかけるような主題で静かに始まります。しかし、すぐに活気を取り戻し、ピアノとチェロが互いに呼応し合う、情熱的で躍動的な展開を見せます。形式はソナタ形式の伝統に従っていますが、主題間の対比や展開部のドラマティックな運びにはメンデルスゾーン独自の色が現れています。

第2楽章 アンダンテ (Andante)

ト短調、8分の3拍子。三部形式（A-B-A'）による緩徐楽章です。単なる歌謡的な緩徐楽章というよりは、軽妙なリズムと旋律を持つスケルツォ的な性格も併せ持っています。主部はト短調で、やや憂鬱な雰囲気を持ちますが、中間部ではト長調へと転じ、明るく穏やかな、慰めに満ちた音楽が奏でられます。主部が再現された後、静かに閉じられます。

第3楽章 アレグロ・アッサイ (Allegro assai)

変ロ長調、4分の4拍子。このフィナーレは、ロンド形式の要素を取り入れつつもソナタ形式の構造を持つ、やや変則的な形式で書かれています。軽やかで推進力のある主題によって開始されますが、冒頭はむしろ抑制された、静かな雰囲気を持っています。楽章は次第に熱を帯び、展開部では劇的に高揚します。再現部を経て、最後は冒頭の静けさを取り戻し、穏やかに作品の幕を閉じます。この楽章の構成には、メンデルスゾーンの形式に対する柔軟な姿勢が見られます。

このソナタの楽譜は、国際楽譜ライブラリープロジェクト（IMSLP）などのウェブサイトで入手可能です。

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