チェロ協奏曲 (ミャスコフスキー)

ニコライ・ミャスコフスキー：チェロ協奏曲ハ短調 作品66

ロシアの作曲家ニコライ・ミャスコフスキー（Nikolai Myaskovsky, 1881-1950）によるチェロ協奏曲ハ短調 作品66は、1944年に完成された彼の数少ない協奏曲作品の中でも、特に重要な位置を占める傑作として知られています。交響曲を多数手がけたミャスコフスキーが、独奏楽器とオーケストラのために書いたのは、このチェロ協奏曲とヴァイオリン協奏曲作品44（1938年）のわずか二作品のみ。これらの協奏曲は、いずれも彼の創作活動の中でも特に演奏される機会が多く、今日でも高く評価されています。

作曲背景と評価

本作品は第二次世界大戦中の1944年に作曲されました。戦時下の困難な状況下で生み出されたにもかかわらず、深い抒情性と構成の確かさを兼ね備えています。その芸術的価値は高く評価され、完成の翌年である1945年には、同じく同時代の傑作である弦楽四重奏曲第9番（1943年）と共に、ソヴィエトにおける権威あるスターリン賞第一席を受賞しました。これは、当時の音楽界におけるこの作品への高い賛辞を示すものです。

初演と献呈

作品の初演は、完成から間もない1945年3月17日、モスクワにて行われました。この歴史的な演奏でチェロ独奏を務めたのは、20世紀を代表するソヴィエトの偉大なチェリスト、スヴャトスラフ・クヌシェヴィツキー（Sviatoslav Knushevitsky, 1908-1973）でした。ミャスコフスキーはこのチェロ協奏曲をクヌシェヴィツキーに献呈しており、彼の技術と芸術性が作曲に少なからず影響を与えたことがうかがえます。

楽器編成

この協奏曲は、独奏チェロと以下の編成によるオーケストラのために書かれています。

独奏チェロ
フルート 2
オーボエ 2
クラリネット 2
ファゴット 2
ホルン 4
トランペット 2
ティンパニ
弦五部（ヴァイオリン第一部、ヴァイオリン第二部、ヴィオラ、チェロ、コントラバス）

木管楽器、金管楽器、ティンパニは各パート標準的な数で構成されており、独奏チェロを支えつつ、豊かな響きを作り出す編成となっています。

楽曲構成

ミャスコフスキーのチェロ協奏曲は、伝統的な三楽章形式とは異なり、以下の二つの楽章から構成されています。特筆すべきは、これらの楽章が切れ目なく続けて演奏されるように指示されている点です。全体の演奏時間は約25分と比較的コンパクトにまとめられています。

1. 第1楽章：レント・マ・ノン・トロッポ (Lento ma non troppo)
調性：ハ短調 (C minor)
拍子：8分の6拍子
形式：ソナタ形式

「ゆったりと、しかし遅すぎずに」という意味の速度指示が付けられたこの楽章は、深い内省的な雰囲気を持ち、陰影に富んだ抒情性が特徴です。形式はソナタ形式に則っていますが、伝統的な協奏曲の第1楽章にあるような華やかさよりも、むしろ瞑想的で落ち着いた性格が前面に出ています。独奏チェロは情感豊かな旋律を歌い上げ、オーケストラとの間で繊細な対話が繰り広げられます。

2. 第2楽章：アレグロ・ヴィヴァーチェ (Allegro vivace)
調性：イ短調 (A minor) - ハ長調 (C major)
拍子：2分の2拍子 (Alla breve)
形式：ソナタ形式

「速く、活き活きと」という速度指示が示す通り、一転して躍動感あふれる楽章です。イ短調で開始されますが、音楽は次第に高揚し、クライマックスでは明るいハ長調へと転じます。この楽章もソナタ形式で書かれており、独奏チェロの技術的なパッセージと、オーケストラによる推進力のある伴奏が組み合わされています。終盤のハ長調への転調は、作品全体に希望の光をもたらすかのような効果を持ち、力強い終結部へと導きます。

まとめ

ニコライ・ミャスコフスキーのチェロ協奏曲ハ短調 作品66は、彼の円熟期の傑作として、独奏チェロの持つ幅広い表現力と美しい音色を存分に引き出しつつ、作曲家ならではの堅固な構成力と独特の叙情性を兼ね備えています。スターリン賞を受賞したことからもその評価の高さがうかがえ、ソヴィエト時代の重要なチェロ協奏曲の一つとして、現在でも多くのチェリストや聴衆に愛され続けています。

参考文献

『最新名曲解説全集10 協奏曲III』 音楽之友社

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