ニコライ・ミャスコフスキー

ニコライ・ミャスコフスキー：知られざる交響曲作家

ニコライ・ヤコヴレヴィチ・ミャスコフスキー（1881年4月20日 - 1950年8月8日）は、20世紀前半に活躍したロシアの作曲家です。彼は、ベートーヴェン以降の作曲家としては異例の27曲もの交響曲を作曲したことで知られています。しかし、これらの作品は長らく日の目を見ることはありませんでした。近年になってようやく再評価が進み、その音楽的価値が改めて認識されつつあります。

生涯：音楽への目覚めと変遷

初期：学生時代まで

ミャスコフスキーは、ワルシャワ近郊で軍人の家庭に生まれました。当初は軍人の道を歩むことを期待されていましたが、音楽への情熱を抱き、サンクトペテルブルク音楽院に進学しました。音楽院では、同級生のプロコフィエフと生涯にわたる親交を結びました。二人は教官への反感から意気投合し、ミャスコフスキーは在学中に作曲した弦楽四重奏曲の中で、グリーグの主題による変奏曲を書いています。また、プロコフィエフと共作した交響曲の断片は、後にプロコフィエフのピアノソナタの素材となりました。1908年には、交響曲第1番で音楽院を卒業しました。1914年の交響曲第3番はスクリャービンの影響を受けており、葬送行進曲にはミャスコフスキーには珍しい要素が見られます。

第一次世界大戦に従軍したミャスコフスキーは、戦争神経症に苦しみますが、その間に交響曲第4番と第5番という対照的な作品を生み出しました。1917年から1921年まで赤軍に所属し、その後モスクワ音楽院の教員となりました。ソ連作曲家同盟の会員にも選ばれています。

中期：作風の変遷と実験

1921年から1933年は、ミャスコフスキーが最も実験的な作曲を行った時期でした。交響曲第10番、第13番、ピアノソナタ第4番、弦楽四重奏曲第1番など、和声法を大きく拡張した作品が生まれています。特に交響曲第13番は、単一楽章で構成され、フガートで締めくくられるという特徴的な作品です。また、アメリカ初演を自ら行った唯一の作品でもあります。弦楽四重奏曲は第1番から第4番までありますが、第3番と第4番は初期の作品を改訂したもので、他の二つとは作曲様式が異なります。交響曲第6番は合唱を伴う唯一の交響曲であり、彼の交響曲の中で最長の作品です。終楽章にはグレゴリオ聖歌「怒りの日」やフランス革命歌の旋律が引用されています。

1933年以降、ミャスコフスキーは実験的な作風から後退し、新古典主義的な作風へと変化します。これは、当時のソ連における「社会主義リアリズム」という芸術政策の影響が大きいと考えられます。しかし、彼の職人的な技術は健在で、オイストラフに献呈されたヴァイオリン協奏曲や、ロストロポーヴィチが愛奏したチェロ協奏曲など、優れた協奏曲を作曲しています。また、交響曲第21番は、簡潔で叙情的な作風を示しており、1920年代とは大きく異なる作風となっています。

晩年：古典化の時代

晩年のミャスコフスキーは、古典的な形式を重視するようになります。交響曲第22番は、第二次世界大戦に着想を得た作品で、プロコフィエフやハチャトゥリアンらと共に疎開したカバルディノ＝バルカリア地方の民謡を取り入れています。この時期の作品は、ロマン主義的な響きと、緻密な構成が特徴です。弦楽四重奏曲では、神経症的なスケルツォが特徴的です。チェロ協奏曲やチェロソナタ第2番に見られるように、限られた手段で、直接的で濃密な表現を実現しています。ただし、初期作品のような実験性は見られません。晩年の作風は、当時の政治状況から、保守的にならざるを得なかったと考えられます。

ミャスコフスキーは1950年に亡くなりましたが、生涯で87の作品を残しました。生前にはスターリン賞を6度受賞しており、これは彼をしのぐ作曲家はいません。しかし、没後、ジダーノフ批判によって名誉を傷つけられましたが、後に名誉回復されています。

影響力と遺産

ミャスコフスキーは、多くの門弟を育てました。アラム・ハチャトゥリアン、ロディオン・シチェドリン、ドミトリー・カバレフスキー、ヴィッサリオン・シェバリーンなどが彼の門下生です。また、ゴルーベフは、アルフレート・シュニトケを育てています。

ミャスコフスキーの作品は、演奏や録音の機会は少ないですが、交響曲第27番、吹奏楽のための交響曲第19番、チェロソナタなどは比較的多く演奏されています。指揮者のエフゲニー・スヴェトラーノフは、ミャスコフスキーを敬愛しており、積極的に彼の作品を取り上げていました。2001年には、交響曲全集をリリースしています。また、交響曲第21番は、1940年代からユージン・オーマンディらによって演奏されています。

主要作品

交響曲

全27曲
交響曲第1番ハ短調 作品3
交響曲第2番嬰ハ短調 作品11
交響曲第3番イ短調 作品15
交響曲第4番ホ短調 作品17
交響曲第5番ニ長調 作品18
交響曲第6番変ホ短調 作品23（合唱付き）
交響曲第7番ロ短調 作品24
交響曲第8番イ長調 作品26
交響曲第9番ホ短調 作品28
交響曲第10番ヘ短調 作品30
交響曲第11番変ロ短調 作品34
交響曲第12番ト短調 作品35「十月」
交響曲第13番変ロ短調 作品36
交響曲第14番ハ長調 作品37
交響曲第15番ニ短調 作品38
交響曲第16番ヘ長調 作品39
交響曲第17番嬰ト短調 作品41
交響曲第18番ハ長調 作品42
交響曲第19番変ホ長調 作品46
交響曲第20番ホ長調 作品50
交響曲第21番嬰ヘ短調 作品51
交響曲第22番ロ短調 作品54
交響曲第23番イ短調 作品56
交響曲第24番ヘ短調 作品63
交響曲第25番変ニ長調 作品69
交響曲第26番ハ長調 作品79
交響曲第27番ハ短調 作品85

シンフォニエッタ

シンフォニエッタ 作品10
弦楽のためのシンフォニエッタ 作品32-2
シンフォニエッタ 作品68

協奏曲

フルート、クラリネット、ホルン、バスーン、ハープ、弦楽合奏のための叙情的小協奏曲 作品32-3
ヴァイオリン協奏曲ニ短調 作品44
チェロ協奏曲ハ短調 作品66

管弦楽曲

序曲
悲愴序曲 作品76
交響詩『沈黙』作品9
交響詩『アラストル』作品14
室内楽のためのセレナード 作品32-1

吹奏楽曲

祝典行進曲 変ロ長調
劇的行進曲 ヘ長調
《ヘ短調の行進曲》《ヘ長調の行進曲》 作品53
劇的序曲 ト短調 作品60

室内楽曲

弦楽四重奏曲 全13曲
弦楽四重奏曲 ヘ長調
弦楽四重奏曲 第1番 イ短調 作品33-1
弦楽四重奏曲 第2番 ハ短調 作品33-2
弦楽四重奏曲 第3番 ニ短調 作品33-3
弦楽四重奏曲 第4番 ヘ短調 作品33-4
弦楽四重奏曲 第5番 ホ短調 作品47
弦楽四重奏曲 第6番 ト短調 作品49
弦楽四重奏曲 第7番 ヘ長調 作品55
弦楽四重奏曲 第8番 嬰ヘ短調 作品59
弦楽四重奏曲 第9番 ニ短調 作品62
弦楽四重奏曲 第10番 ヘ長調 作品67-1
弦楽四重奏曲 第11番 変ホ長調 作品67-2
弦楽四重奏曲 第12番 ト長調 作品77
弦楽四重奏曲 第13番 イ短調 作品86
チェロソナタ
第1番 ニ長調 作品12
第2番 イ短調 作品81
ピアノソナタ 全9曲
第1番ニ短調作品6
第2番 嬰ヘ短調作 品13
第3番 ハ短調 作品19
第4番 ハ短調 作品27
第5番 ロ長調 作品64-1
第6番 変イ長調 作品64-2
第7番 ハ長調 作品82
第8番 ニ短調 作品83
第9番 ヘ長調 作品84

声楽曲

カンタータ『キーロフ万歳』作品61
カンタータ『夜のクレムリン』作品75
歌曲

ミャスコフスキーは、20世紀音楽史において重要な作曲家の一人であり、彼の作品は今後ますます評価されていくことが期待されます。

もう一度検索