チチ (ジャイアントパンダ)

ジャイアントパンダ・チチ：ロンドン動物園のスターとWWFロゴのモデル

1954年9月生まれのメスのジャイアントパンダ、チチは、1958年から1972年7月22日の死までロンドン動物園で暮らしました。中国・四川省で捕獲され、紆余曲折を経てロンドン動物園にたどり着いたチチは、2500万人もの来園者を集める人気者となりました。愛くるしい姿は多くの人々を魅了し、特に1971年の昭和天皇のイギリス訪問時には、天皇陛下がチチを熱心にご覧になったことが、日本だけでなく海外でも大きく報道されました。

ロンドン動物園への道のり

チチは中国で捕獲後、北京動物園を経て、オーストリアの動物商によって西ベルリンに運ばれました。アメリカへの売却が中国製品の禁輸措置によって頓挫したのち、コペンハーゲンを経てロンドンに巡業。そこでその人気ぶりに注目したロンドン動物園が、多大な資金を投じて買い取りました。ロンドン動物園にはチチ以外にも過去にパンダが飼育されていましたが、チチはそれらに劣らず、いや、それらを凌駕する人気を博しました。

アンアンとのペアリング：東西冷戦下のパンダ外交

発情期を迎えたチチの繁殖のため、ロンドン動物園はモスクワ動物園のオスのパンダ、アンアンとのペアリングを何度も試みました。しかし、1966年と1967年の2度にわたる試みは成功せず、冷戦下の国際情勢も複雑に絡み合った、興味深いエピソードとして残されています。モスクワでのペアリングの際には、チチがアンアンに懐かなかったり、喧嘩になったという様々な証言が残っており、その様子は想像力を掻き立てられます。このペアリング計画は、パンダの生態についての貴重なデータをもたらす結果となりました。

昭和天皇とチチの出会い

1971年、昭和天皇と香淳皇后がイギリスを訪問した際、ロンドン動物園を訪れ、チチと対面しました。天皇陛下はチチに深い関心を示され、予定時間を超えてチチを観察されたといいます。この出来事は、日本の新聞だけでなく、シカゴ・トリビューン紙など海外メディアでも大きく報道され、世界にチチの名を広めることとなりました。この訪問は、日本におけるパンダ人気を大きく高めるきっかけとなったとされています。

WWFロゴのモデル

チチは1972年に老衰のため亡くなりましたが、その剥製はロンドン自然史博物館に収蔵され、現在も展示されています。そして、チチはWWF（世界自然保護基金）のロゴマークのモデルにもなりました。国際的な組織のシンボルとして、チチの姿が世界中の人々に自然保護の重要性を訴え続けています。チチのイラストを元にデザインされたこのロゴマークは、現在も使用されており、WWFの活動の象徴となっています。

チチの遺産

チチは、単なる動物園の人気者としてだけでなく、国際的な外交や自然保護の象徴として、そしてWWFのロゴとして、その存在感を示しました。その生涯は、東西冷戦下の国際情勢や、パンダをめぐる様々な出来事、そして自然保護への関心の高まりを象徴する、貴重な歴史の一端を垣間見せてくれます。チチは、私たちに忘れかけていた自然への畏敬の念を、改めて思い出させてくれる存在です。彼女の物語は、これからも多くの人々に語り継がれていくことでしょう。

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