チチェスター・フェスティバル劇場

イングランド南東部に位置する歴史都市チチェスター。その中心市街地の北部に広がるオークランズ公園の一画に、チチェスター・フェスティバル劇場は静かに佇んでいます。この劇場は、元チチェスター市長であるレスリー・エヴァーシェッド-マーチンの先駆的な構想に基づいて誕生しました。建築家フィリップ・パウエルとヒダルゴ・モヤによって設計され、1962年にその歴史の幕を開けました。開設当初から、その現代的な建築デザインと、野心的なプログラム編成は注目を集めました。

劇場の記念すべき初代芸術監督には、英国演劇界の最も偉大な人物の一人、ローレンス・オリヴィエ卿が就任しました。オリヴィエ卿は、このチチェスターの地で、やがて英国演劇界の中心となる国立劇場劇団の最初のメンバーを集め、歴史的な一歩を踏み出したのです。チチェスターでの上演が、その後の国立劇場劇団の方向性を定める上で重要な役割を果たしたと言えるでしょう。実際、チチェスターで好評を博した作品の多くは、国立劇場劇団の本拠地であるロンドンのオールド・ヴィック・シアターへ移され、ロンドンの観客にも披露される機会が少なくありませんでした。この密接な関係は、チチェスター・フェスティバル劇場の地位を高める上で大きな要因となりました。

主劇場であるフェスティバル劇場に加え、1989年には、より親密な空間を持つ小劇場、ミネルバ劇場が敷地内に増築されました。これにより、より多様な規模やスタイルの演目を上演することが可能となり、劇場の活動範囲はさらに広がりました。

劇場が最も活気づくのは、例年4月から9月にかけてのシーズンです。この期間、舞台では古今東西の名作古典劇から、先鋭的な新作現代劇、そして親しみやすいミュージカルまで、実に幅広いジャンルの演目が上演されます。演劇界の著名な俳優や演出家が多数参加することも、この劇場の大きな魅力の一つです。

本公演に加え、季節限定のイベントも多数開催されます。広大な公園内の空間を利用した野外プロムナード上演や、趣向を凝らしたキャバレー、コメディショーなどが夜を彩ります。さらに、プロを目指す若手やアマチュアに発表の場を提供する企画、家族連れが楽しめる「家族の日」イベント、演劇に関する講演会など、地域に開かれた多様な取り組みが行われています。これは、劇場が単なる上演の場に留まらず、地域社会との繋がりを重視し、幅広い層に文化体験を提供する拠点であることを示しています。

現在、チチェスター・フェスティバル劇場は登録慈善団体として運営されています。実業界で成功を収め、1980年代の保守党政権下で閣僚も務めたグラファム卿デビッド・ヤング氏が会長を務めています。この運営体制のもと、劇場はその高い芸術水準を維持しつつ、安定した活動を続けています。

劇場の芸術的な舵取りを担ってきた歴代の芸術監督たちは、それぞれが独自のカラーを持ち、劇場の発展に貢献してきました。

歴代芸術監督:

ローレンス・オリヴィエ卿（1962-1965）
ジョン・クレメンツ卿（1966-1973）
キース・ミチェル（1974-1977）
ピーター・デュース（1978-1980）
パトリック・ガーランド（1981-1984）
ジョン・ゲイル（1985-1989）
マイケル・ルードマン（1990）
パトリック・ガーランド（1991-1994）
デレク・ジャコビ卿、ダンカン・Ｃ・ウェルドン（1995-1997）
アンドリュー・ウェルチ（1998-2002）
マーティン・ダンカン、ルース・マッケンジー、スティーヴン・ピムロット（2003-2005）
ジョナサン・チャーチ（2006-2016）
* ダニエル・エヴァンス（2016-現在）

チチェスター・フェスティバル劇場は、設立以来、英国演劇界において重要な役割を果たしてきました。地方の劇場でありながら、その芸術水準の高さと革新的な取り組みは、国内外から高い評価を得ています。歴史と伝統を重んじつつも、常に新しい挑戦を続けるその姿勢は、今後も多くの観客を魅了し続けるでしょう。

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