チチェスター

チチェスター：歴史と文化が香る英国の古都

イングランド南東部、ウェスト・サセックス州に位置するチチェスターは、豊かな歴史と活気ある文化が調和する魅力的な都市です。古代ローマ時代のノウィオマグス・レギノルムという都市の上に築かれたチチェスターは、アングロ・サクソン時代にも重要な拠点として栄え、現在もその歴史的遺産を色濃く残しています。

歴史の息吹：ローマから現代へ

ブリテン島へのローマ帝国侵攻の橋頭堡として、そしてアングロ・サクソン七王国時代におけるサセックス王国の主要都市として、チチェスターは常に重要な役割を果たしてきました。ローマ時代の宮殿跡や、西暦80年頃に建設されたと推定される円形劇場の遺跡は、その歴史を雄弁に物語っています。市街地中心部には、フィッシュボーン宮殿からロンドンに至るローマ街道「石の道」が走り、中世のマーケット・クロスから東西南北に放射状に伸びる街路は、古代からの都市構造を今に伝えています。比較的よく保存された城壁の上を歩くこともでき、歴史散歩に最適な場所です。1075年には司教座が移転し、12世紀初めに完成した大聖堂は、火災による被害後、12世紀末に再建され、現在もチチェスターのシンボルとして人々を見守っています。

行政の中枢と独自の選挙史

チチェスターは、パリッシュレベルの行政教区でありながらシティ・ステータスを有する珍しい都市です。市、ディストリクト、ウェスト・サセックス州の三つのレベルの行政機関が置かれ、地方行政の中枢として機能しています。また、チチェスターの選挙区は、17世紀に庶民院が平民にも選挙権を認めたという特異な歴史を持ちます。1660年の王政復古の際、市長が投票権を自由人に限定した選挙を行ったため、庶民院は選挙結果を覆し、市長を投獄しました。この出来事は、チチェスターの民主主義の歴史における重要な転換点と言えます。

地理的特性と自然環境

サウスダウンズ丘陵から流れるラヴァント川河谷南方に位置するチチェスターは、古代から交易路が集まる要衝でした。市街地には水路が張り巡らされ、その一部は地下水路となっています。西郊外には、チチェスター港と呼ばれる湾があり、干潟や塩沼などの自然環境が広がり、ラムサール条約登録地にもなっています。2005年には「チチェスター保存地域の特色評価」が採択され、ローマ時代の町全体を含む広範囲が保護されています。

人口と経済

2001年の国勢調査では、チチェスター市の人口は約23,731人、チチェスター・ディストリクトの人口は約106,445人でした。温暖な気候を求めて、退職後に移住してくる高齢者が多いのが特徴です。経済は、歴史的観光資源を活かした観光産業が中心で、国際的な学術専門出版社Wileyの本社もチチェスターにあります。

見どころ：歴史的建造物と文化施設

チチェスター大聖堂は、11世紀に創建され、三位一体と聖リチャードを祀る歴史的建造物です。1861年に崩壊した尖塔は再建され、南側の側廊の床下にはローマ時代のモザイクが見られます。13世紀築の鐘楼は、大聖堂から離れて独立している珍しい構造です。大聖堂には、中世の騎士の墓やウィリアム・ハスキソンの像なども安置されています。他にも、ローマ時代の円形劇場跡、1808年開業のバターマーケット、1833年建設のコーン・エクスチェンジ、そしてかつての市場跡であるチチェスター・クロスなど、歴史的建造物が数多く残されています。

交通とアクセス

チチェスターは主要道路網の要衝であり、A27、A259などの幹線道路が通っています。チチェスター駅はウェスト・コーストウェイ線に属し、ブライトン、ロンドン・ヴィクトリア駅、ポーツマス、サウサンプトン、ベイジングストークなどへの鉄道が運行されています。また、長距離ハイキングやサイクリングコースも多く、観光客にも便利な立地です。

教育：充実した教育機関

チチェスターには、中等教育機関、初等教育機関、そして高等教育機関が充実しています。ウェスト・サセックス州最大のシックスス・フォーム、職業資格に特化したチチェスター・カレッジ、そして2005年に学位授与機関となったチチェスター大学などがあります。チチェスター・カレッジは、海外からの留学生向けの英語研修プログラムも積極的に展開しており、多くの日本人学生も学んでいます。

文化と芸術：多彩なイベントと施設

毎年7月に開催されるチチェスター・フェスティバルは、3週間におよぶ芸術と音楽の祭典です。チチェスター・フェスティバル劇場は、英国有数の劇場として知られ、夏にはロンドンの演劇関係者も集まります。パラント・ハウス・ギャラリーは現代英国美術を展示し、チチェスター・シネマは芸術映画を中心に上映しています。また、1990年代には、ゴスやパンクなどのオルタナティブな文化も盛んであったようです。

音楽：クラシックからポピュラーまで

チチェスターの音楽シーンは多様性に富み、1881年創設のチチェスター交響楽団はクラシック音楽の伝統を継承しています。毎年7月には「Chichester RAJF」というリアルエールとジャズフェスティバルが開催され、6月には「Blues on the Farm」というブルース・フェスティバル、そして「Roots Arounf the World」という世界音楽を紹介するフェスティバルも開催されます。

スポーツ

クリケット、ラグビー、サッカー、フラッグフットボール、ホッケー、サイクリングなど、様々なスポーツが盛んで、それぞれのクラブが活躍しています。市のレジャーセンターには、プールやスポーツホールなどの施設があり、水泳クラブも活動しています。

まとめ

歴史、文化、自然、教育、スポーツなど、あらゆる面で魅力に満ちたチチェスターは、英国を訪れる際にはぜひ訪れてみたい都市の一つです。

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