チチヤス

チチヤス株式会社：日本のヨーグルトの歴史を刻んだ企業

チチヤス株式会社は、広島県廿日市市に本社を置く、牛乳や乳製品の製造販売を行う企業です。2011年に伊藤園の完全子会社となり、現在も日本の乳製品業界において重要な役割を担っています。特に、1917年に日本で初めてヨーグルトを発売した企業として知られており、中小乳業メーカーとしては最古の歴史を持つ企業の一つとしてその名を刻んでいます。

創業から明治時代：牛乳普及への挑戦

1886年、創業者である野村保は、広島市に牧場を設立し、「広島合資ミルク会社」を創業しました。当時、牛乳を飲む習慣は日本にまだ定着しておらず、野村は困難な道のりを歩むことになります。しかし、日清戦争中に明治天皇が広島を訪れた際、飲料水として牛乳が提供されたことがきっかけで、牛乳の需要が大きく増加しました。野村は、特製の牛乳配達用馬車「野村鉄馬車」を開発するなど、衛生面に配慮した革新的な販売方法を導入し、事業の拡大に成功しました。

社名と廿日市への移転：新たな挑戦

1904年、二代目の野村清次郎は、会社設立の経緯にちなんで「チチヤス」という社名に改めました。同年、現在の廿日市市に移転し、大規模な果樹園と牧場を開設しました。多角経営への取り組みとして、果樹園で栽培された果物は、牛乳の販売促進にも活用されました。

ヨーグルト開発：日本の食文化への貢献

チチヤスの五男、野村真一は、ヨーグルトの製造に情熱を注ぎました。当時、ヨーグルトは自然発酵で作られていましたが、真一はブルガリア菌を用いた人工培養によるヨーグルトの開発を目指し、韓国に渡り研究に没頭しました。1915年、日本で初めてとなる日本製のヨーグルトを発売しました。しかし、販売開始当初は、ヨーグルトの認知度が低く、売れ行きは伸び悩みました。それでも真一は、サイドカー付きオートバイによる配達など、斬新な販売戦略を展開することで、ヨーグルトの普及に貢献しました。

戦前・戦中：困難を乗り越える

昭和初期には、学校給食への牛乳供給にいち早く取り組むなど、社会貢献にも力を入れました。太平洋戦争中は、生産活動に制限が加えられましたが、それでも生産を続け、広島原爆投下の際には、被爆者へ牛乳を配給するなど、創業の精神を貫きました。

戦後：チチヤス菌の開発と事業拡大

戦後、野村義雄はシベリア抑留の経験からヨーグルトの重要性を再認識し、長年の研究開発により、日本人の体質に最適な「チチヤス菌」を開発しました。紙容器やプラスチック容器の開発、スーパーマーケットへの販売拡大など、時代に合わせて柔軟な対応を行うことで、ヨーグルト市場でのシェアを拡大しました。

レジャー事業への進出と再生：苦難と転換

1960年代には、遊園地やスキー場などのレジャー施設の運営にも着手しました。しかし、2000年代初頭にはレジャー事業の不振により多額の負債を抱えることとなり、投資ファンドからの出資を受けて事業再生を行うことになります。乳製品事業に特化し、会社分割を経て、新たなチチヤス株式会社が設立されました。

伊藤園による買収と現在

2011年、伊藤園がチチヤス株式会社の全株式を取得し、完全子会社となりました。伊藤園との協業により、新たな商品開発や販売網の拡大が図られています。現在も、ヨーグルトや牛乳をはじめとした乳製品の製造販売を続け、日本の食文化に貢献し続けています。

まとめ

チチヤス株式会社は、明治時代からの歴史の中で、数々の困難を乗り越え、常に革新的な取り組みを続けてきました。ヨーグルトの開発、販売方法の工夫、事業の多角化、そして事業再生など、その歴史は日本の乳製品業界、そして食文化の発展に大きく貢献してきました。今後も、伊藤園の一員として、更なる発展が期待されます。

もう一度検索