チッタゴン丘陵地帯

チッタゴン丘陵地帯とは

バングラデシュ南東部の国境地帯、インドおよびミャンマーとの境に広がる広大な丘陵地域です。その面積は約13,180平方kmに及び、地理的にはヒマラヤ山系の東南への延長部分にあたります。バングラデシュ国内においては、行政的にチッタゴン管区の一部として位置づけられています。

歴史的背景

この地域は古くから多様な民族が暮らす地でしたが、特に1971年のバングラデシュ独立を機に、その状況は大きく変化しました。先住民族（総称してジュマと呼ばれる）は、民族のアイデンティティと権利を守るため、1972年に政治組織「チッタゴン丘陵人民連帯連合協会」(PCJSS)を結成し、自治権確立を目指す運動を開始しました。これがバングラデシュ政府との間の緊張を高め、翌1973年には政府軍との武力衝突へと発展します。

特に1977年から1997年にかけては、ジュマの武装組織「シャンティ・バヒーニー」と政府軍との間で、およそ20年にわたる「チッタゴン丘陵地帯紛争」が発生しました。この長期にわたる紛争により、多くの住民が居住地を追われ、近隣のインド（特にトリプラ州）やミャンマーへ難民として流出しました。

紛争の大きな背景の一つには、バングラデシュ政府が進めた「ベンガル化」政策があります。これは、国内の様々な民族をベンガル人として統合しようとするもので、1979年頃からは、この政策の一環として、平野部から大量のベンガル人がチッタゴン丘陵地帯に入植させられました。この政策により、元々少数であったベンガル人の人口が急増し、1990年代初頭には、先住民族であるジュマとベンガル人の人口がほぼ同数となるまでに至りました。また、1962年に完成したカプタイダムの建設も、地域の不安定化に拍車をかけました。ダム建設によって広大な農地や居住地が水没しましたが、影響を受けた先住民族、特にチャクマ族への十分な補償は行われず、4万人以上がインドへの移住を余儀なくされたのです。この大規模な土地喪失は、紛争の主要な原因の一つと考えられています。カプタイダムは現在もバングラデシュ唯一の水力発電所として重要な役割を担っています。

住民構成

チッタゴン丘陵地帯の総人口は100万人から150万人程度と推定されています。主要な住民は、伝統的に焼き畑農業を生業としてきた「ジュマ」と呼ばれる先住民族と、後にこの地に移住してきたベンガル人です。

ジュマは単一の民族ではなく、複数の集団から構成されています。現在、一般的に以下の12民族が主要なジュマ民族とされており、それぞれ独自の言語や文化を持っています：チャクマ族、マルマ族、トリプラ族、トンチョンギャ族、チャク族、パンコー族、ムロ族、ムルン族、バウム族、ルシャイ族、キャン族、クミ族です。ジュマの多くは上座仏教を信仰しており、文化・人種的には東南アジアの人々に近い特徴を持っています。彼らはバングラデシュ政府の同化政策によって、しばしば差別や迫害に直面していると感じており、これが地域内の緊張状態や治安の悪化の一因となっています。

一方、ベンガル人のほとんどはイスラム教徒です。元々、この地域に暮らすベンガル人はごく少数でしたが、カプタイダム建設などの開発や、その後の政府による計画的な入植政策により人口が急増しました。1997年の和平協定においては、紛争終結に向けた取り組みの一環として、この地域に既に居住していたベンガル人およびその子孫は、チッタゴン丘陵地帯評議会の選挙権を認められるなど、先住民族と同等な権利を持つ正当な住民と位置づけられました。しかし、現在も職を求めて非合法に移住してくるベンガル人も少なくなく、これが土地や資源を巡る問題をさらに複雑にしています。

2011年の国勢調査によると、この地域の人口構成は、上座仏教徒のジュマが約50%、イスラム教徒のベンガル人が約48%を占め、残りがヒンドゥー教、キリスト教、アニミズムなどの信徒となっています。

現在の状況

政府の同化政策に対する先住民族の不満や抵抗、そして土地や資源を巡る民族間の対立は依然として根深く存在しており、地域全体の治安は不安定な状況が続いています。

チッタゴン丘陵地帯は、豊かな自然環境を持つ一方で、近代史における開発、民族間の対立、政治的な同化政策、そして土地を巡る争いといった複雑な課題を抱える地域です。先住民族ジュマと移住者であるベンガル人が共存を試みる中で、その安定に向けた道のりにはいまだ多くの課題が残されています。

関連項目
* チッタゴン管区

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