チャイナ・ガール (曲)

「チャイナ・ガール」（China Girl）

「チャイナ・ガール」は、イギリスを代表するアーティスト、デヴィッド・ボウイと、アメリカの異才イギー・ポップが共同で生み出した楽曲です。この曲のアイデアは、両者がドイツのベルリンに滞在していた1977年に生まれました。

楽曲の初出とオリジナル版

この楽曲が最初に世に示されたのは、1977年に発表されたイギー・ポップのソロアルバム『イディオット』においてでした。このオリジナルバージョンは、デヴィッド・ボウイが当時、おもちゃのピアノを使って作曲したという逸話を持っています。サウンドとしては、イギー・ポップらしい粗削りで内省的な雰囲気を帯びていました。

デヴィッド・ボウイによるセルフカバー

その後、イギー・ポップが薬物依存症や経済的な困難に直面した際、デヴィッド・ボウイは旧友である彼を支援することを考えました。その具体的な方法として、1983年にリリースする自身のアルバム『レッツ・ダンス』で、「チャイナ・ガール」をセルフカバーすることを選択しました。この行為には、楽曲の権利を持つポップに印税収入をもたらし、彼の生活を安定させるという目的がありました。

『レッツ・ダンス』版のサウンド

『レッツ・ダンス』に収録されたバージョンは、ファンクバンド、シックのギタリスト兼プロデューサーとして知られるナイル・ロジャースによってプロデュースされました。ロジャースの手腕により、イギー・ポップのオリジナル版が持つダークな雰囲気とは対照的に、より洗練され、ダンスミュージックやポップス寄りの、コマーシャルなサウンドへと生まれ変わりました。このプロダクションの転換が、楽曲を世界的なヒットへと導く重要な要素となりました。

商業的な成功とチャート記録

『レッツ・ダンス』からのシングルとしてカットされた「チャイナ・ガール」は、アルバムの成功と共に大きな注目を集めました。イギリスのシングルチャートでは、1983年6月14日付のチャートで最高位2位を記録しましたが、この時期にポリスのヒット曲「見つめていたい」が1位を譲らなかったため、惜しくも首位獲得はなりませんでした。アメリカの主要なシングルチャートであるBillboard Hot 100では、最高位10位に達し、18週間にわたりチャートに留まるなど、両国で高い商業的成功を収めました。

象徴的なミュージックビデオ

この楽曲のヒットには、デヴィッド・マレットが監督を務めたミュージックビデオの存在も不可欠でした。ビデオは主にオーストラリアのメルボルンにある中華街や、シドニーのポート・ジャクソン湾に浮かぶ船上で撮影されました。中でも、共演者のGeeling Ng（ジリン・ウン）とデヴィッド・ボウイが波打ち際で裸で抱き合うシーンは、映画『地上より永遠に』を思わせるもので、当時非常にセンセーショナルなものとして受け止められ、タブロイド紙などで大きな話題となりました。このビデオは、1983年のMTV Video Music Awardsにおいて賞を獲得するほどの評価を得ましたが、後にビデオソフト化される際には、一部の映像に修正が加えられたバージョンも存在します。

ライブパフォーマンスにおける位置づけ

「チャイナ・ガール」は、1980年代のデヴィッド・ボウイのライブツアーにおいて、定番曲として頻繁に演奏されました。しかし、1985年に開催された歴史的なチャリティイベント、ライヴエイドのロンドン会場では、リハーサルで演奏されたものの、本番の限られた時間枠の中で、「ファイヴ・イヤーズ」や「ファスシネイション」といった他の楽曲と共に、最終的なセットリストからは外されるという経緯がありました。

プロダクション詳細と主な収録盤

『レッツ・ダンス』版「チャイナ・ガール」の制作には、プロデューサーのナイル・ロジャースに加え、以下のような著名なミュージシャンが参加しています。

デヴィッド・ボウイ：ボーカル
スティーヴィー・レイ・ヴォーン：ギター
ナイル・ロジャース：ギター
カーマイン・ロジェイス：ベース
オマー・ハキム、トニー・トンプソン：ドラムス
ロブ・サビーノ：キーボード
マック・ゴレホン：トランペット
ロバート・アーロン、スタン・ハリスン、スティーヴ・エルソン：サクソフォーン
サミー・フィゲロア：パーカッション

この楽曲は、『レッツ・ダンス』オリジナル盤のほか、デヴィッド・ボウイのキャリアを概観するいくつかの主要なベストアルバムやコンピレーション盤にも収録されています。

『チェンジスボウイ』（Changesbowie, 1990年）
『ザ・シングルス・コレクション』（The Singles Collection, 1993年）
『デヴィッド･ボウイ･ベスト』（Best of Bowie, 2002年）

また、1998年に公開された映画『ウェディング・シンガー』のサウンドトラックアルバムにも使用されています。

まとめ

「チャイナ・ガール」は、デヴィッド・ボウイとイギー・ポップという稀有なアーティスト間の友情と共同作業から生まれた楽曲であり、特に1983年のボウイによるセルフカバーとその後の商業的成功、そして象徴的なミュージックビデオによって、彼のキャリアにおける重要なマイルストーンの一つとして位置づけられています。

もう一度検索